武田双雲の日本文化入門〜第8回 秦の始皇帝より前にさかのぼる書の歴史

書道家・現代アーティスト 武田双雲とは

武田双雲(たけだ そううん)さんは熊本県出身、1975年生まれの書道家で、現代アーティスト。企業勤めを経て2001年に書道家として独立。以後、多数のドラマや映画のタイトル文字の書を手掛けています。近年は、米国をはじめ世界各地で書道ワークショップや個展を開き、書道の素晴らしさを伝えています。

本連載では、双雲さんに、書道を通じて日本文化の真髄を語っていただきます。

【連載第8回】占いから生まれた最初の書⁉

海外だけでなく、日本にも「書道作品ってどう楽しめばいいんだろう?」と感じている方は少なくないでしょう。

書に向き合う際には、まずご自身の感性にしたがって鑑賞してみてほしいと思います。本連載の第2回第3回で紹介したように、書には、愛や優しさなど深い感動を伝える力があります。

その一方で、書道にはもうひとつの楽しみ方があります。それは、「古典」の文脈(コンテキスト)を踏まえて見るということです。

文字の形や表現方法には、多くの先人たちの積み重ねがあります。それらを想起しながら書を鑑賞すると、今に連なる歴史を感じて、より感動は深まるでしょう。

言葉から文字へ

今回は、書の歴史について説明したいと思います。

地球上の多様な生物の中で、文字を発明したのは人類だけです。人類は数万年前に「言葉」を発明しました。しかし、言葉と違って文字は、目に見える形で残ります。つまり、数千年後の人々にも見られる可能性があるということです。

印刷技術が発達した近代以降は、伝えられる文字の量も大きくなりました。

篆書の誕生

日本の書道文字の起源となる中国の漢字は、もともと占いから生まれたと考えられています。

この時の文字は、亀の甲羅牛の骨に刻まれており、甲骨文字と呼ばれています。これは、政治や天候などに関する占いの結果、つまり神さまの言葉を伝える媒体として誕生したものでした。

その後、中国では、民族ごとにさまざまな文字が生まれます。

しかし、紀元前221年に中国を統一した「秦の始皇帝」が、各民族の文字も統一。公式に制定された文字が誕生しました。その時の書体を「篆書(てんしょ)」と言います。

篆書は、現代でも使われています。

たとえば日本では、印鑑に篆書が使われることがあります。篆書は形が複雑で、現代の文字とも大きく異なり、模倣が難しい。そのため、重要な書類の署名代わりに使う印鑑に向いているのです。

また、印鑑は木や石に文字を彫って作りますが、篆書ももともと石や銅板に彫られていました。「彫られる」もの同士、相性が良いという側面もあります。

シンプルな線が複雑に絡み合う篆書に魅了される人は、今も世界中にいます。次回は、篆書から書体がどのように変化していったのかを説明します。お楽しみに!

今回の書~「書の歴史」

書の歴史を一から振り返って学んでみると、現代の文字や書を客観的に観ることができるので、さらに魅力が浮き上がってきます。

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