「新車を3年で乗り替えたほうがお得と言われたけど?」いくら差が出るかFPが試算

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、夫と子ども2人の4人で暮らす38歳女性。新車で買ったファミリーカーが今年3年目となり、ディーラーから「下取りに出して新車を購入したほうがお得」とアドバイスを受けたそうですが、実際はどうなのでしょうか? FPの秋山芳生氏がお答えします。


車について教えてください。

我が家はファミリーカーを1台所有しています。新車で購入し、今年3年目で車検を受けました。10年は乗り続けるつもりでしたが、ディーラーから「返済途中で乗り替えると下取り金額が高いから残りの返済分は補える。1台の車を長く乗ると下取り金額は下がるし、部品の交換も必要になる。トータルでみると10年乗るより途中で乗り替えたほうが安い」と、新車の購入を勧められました。

本当に途中で乗り替えたほうが安いのでしょうか?

・女性、38歳、会社員

・同居家族について:

夫/運送業、月収手取り21万

子ども/2人(0歳、3歳)

・住居の形態:持ち家(マンション・大阪府)

・毎月の世帯の手取り金額:33万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:50万円

・毎月の世帯の支出の目安:25万円

・車両費:月1万円

・毎月の貯蓄額:2万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:10万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):170万円

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。今回のご相談は、自動車の買い替えについてです。一般的に自動車を購入したら、買った瞬間からリセールバリューは下がり続けていきます。新車への乗り替えをした方が良いというディーラーからの営業を受けたとのことですので、ディーラーのよくある営業トークを一通り検証して、本当に乗り替えが安いのかを考察します。また、今後もカーライフが続くとした場合に、知っておきたい自動車の価格の下落推移の検証や下取りの考え方、カーローンで注意するべき考え方について一緒に考えていきたいと思います。

「3年で乗り替えたほうがお得」は本当?

主に、「新車を購入して3年で別の新車に乗り替えた方がお得だ」という話には、以下のポイントを説明されることが多いです。

【3年以内に乗り替えを勧める場合の営業トークポイント】
●メーカーにもよりますが、新車は2年でマイナーチェンジ、4年でフルモデルチェンジされることが多くあります。フルモデルチェンジされる前の下取り価格の方が、後よりも高いことが多い。
●新車は3年で車検のため、車検前に売れば車検代が発生しない。また、3年をすぎると、以降は2年ごとに車検が発生してランニング費用がかさむ。
●多くの自動車保険が、契約して25か月は新車割引(約1〜10%)が適用されており、この期間に別の新車に乗り替えると新車割引が適用されてお得。
●メーカーの新車保証期間(一般保証)であるので、ほとんどの部品は交換や修理が無料になることがあるが、走行距離が「●キロメートル」までなど規定されており、3年以内なら新車保証の対象期間であるため、一部の消耗品を除いて節約できる
●乗り始めから3年以内の新車はコンディションが悪くないことが多いので、新車を乗り継げば修理やメンテナンス費用が比較的かからない。
●新車を乗り継ぐことで、常に最新の車を体験でき、安全性や燃費の向上などを体感することができる。

これらの「新車を乗り継ぎましょう。新車はお得です。」という営業トークの内容自体は、特に嘘ということもなく実際そのように思います。一方で、新車は買った直後が一番値下がりが激しいので、上記の全てのお得な要素を飲み込んで余りある価格ダウンがありえます。また、新車に乗り継ぐことは当然ながら支払いが永続的に続くことになりますので、トータルで考えてお得ということはありません。

新車の価値は3年後にどれくらいになる?

新車で買った車を3年で売却するとき、車種の希少性や人気、車のコンディション(傷、汚れ、走行距離、事故歴など)にもよりますが、一般車であれば購入価格から30〜80%程度、値段が下がることはよくあります。

例えば300万円で購入した車が3年で30%値下がれば、210万円での下取りになります。50%値下がれば150万円、60%値下がれば120万円が下取り価格ということになります。

300万円の車は、新車購入時に50万円の頭金を払っていて、250万円分の自動車ローンを5年間で年利2.9%で借りている場合、月々のローン支払いは4万4,811円となります。

3年間で200万円以上の支払いをすることになりますので、仮に60%値下がりをしている場合でも売却すればローンは全額返済できます。

3年で乗り替えた場合と乗りつづけた場合、いくらの差が出る?

気になるのは、売却価格が低くなってしまうことです。事故や飛び石などで傷がついたりして価格が下がってしまうのではないかと思い出す頃に、「今なら下取り価格でローンの残債も払えるから、新車に乗り替えましょう」という営業トークを受けると気になってしまいます。

ですが、新車に乗り替えるという選択は、自動車購入費用を払い続けるという選択に他なりません。当たり前ですが、一度購入した車のカーローンを完済すれば出銭は少なくなります。以下の表は、3年で新車に乗り替え続けた場合と、買った車を乗り続けた場合の9年間のシミュレーションになります。

乗り替えた場合は、車検前に下取り価格でローンの残額を返済できる前提で計算しています。また、乗り続けた場合は車検費用が発生し、パーツ交換やタイヤ交換などの費用がかかる想定にしています。

それでも、9年間の費用を比較すると
・新車を乗り替えた場合:約634万円
・新車を乗り続けた場合:約436万円
となり、200万円以上の差になります。

この200万円の差と、先ほどの営業トークのメリットを比べても「お得」とは言えないでしょう。最近の車の耐用年数は13年以上とも言われますので、乗り続けることに問題はないでしょう。

例に上げたパターンだと車関連だけで月に5〜6万円の負担に

ただし、希少価値が高い車や、アラブ諸国などで人気のトヨタのランドクルーザーやアルファードや高級SUVなどの一部の車はリセール先が世界中にあるため、下取り価格が高いことがあります。また、新車の納品待ちがあるジムニーなどは、購入してから3年では購入価格から5〜20%しか値段が下がらなかったということもあります。車種の需給によっても変わるということを念頭においておきましょう。

また、先ほどの例では月のローン支払いが月額4万円を超え、自動車保険やガソリン、その他のカー用品などの費用も考えると月に5〜6万円以上は自動車関連費用だけでかかると思われます。こうなると、毎月の支払いは相当な負担になります。そこで、「残価設定ローン」という販売方法がとられることが多いのです。

残価設定ローンって?注意したいポイントは?

残価設定ローンは、あらかじめ3年後や5年後の売却価格を決めておく手法です。3年後の売却価格を120万や、5年後は70万円などに設定することで、毎月のローン支払額を小さくすることができるというものです。当然、所定の期間が過ぎたら車を売却するか、乗り続けるためには残価を支払い買取りすることが必要になります。また、残価設定ローンのほうが金利を安く設定しているディーラーも多いことから、選ぶ方が増えています。この残価設定ローンは、一見すると良いことだらけなのですが、注意も必要です。

1)所定の期間が来たら車がなくなる
所定の期間が過ぎたら売却することが前提になるので、当たり前ですが自動車がなくなります。その場合、車に乗るのをやめるか、別の車を買うかの選択になります。

2)売却の際、想定していた金額よりも買取り価格が低くなることがある
想定していた期間を過ぎて、いざ蓋をあけてみると、思っていたより長い走行距離を走っていたために売却価格が下がるということがあります。また、傷、汚れなどによっても売却価格が下がることがあり、その場合は、ローンの残高と車の売却価格の差額を支払わなければならなくなります。

3)ローンの金利は、残価にも発生する
またローンの金利は残価にも発生します。購買価格から残価を引いた部分に金利がかかると思っている人がいるので注意が必要です。

また、残価設定ローンは、最後に売却か買取りかを迫られ、車がなくなるなら新しい車に乗り替えようという発想になりがちです。先ほどの新車を乗り継ぐようなサイクルに、思いもよらず乗っているということにもなりかねないので注意していただければと思います。

最近は購入以外の選択肢も充実

最近では、サブスクリプションサービスとして、月額の利用料を支払うことで車を借りるカーリースサービスも出ています。車検も不要、自動車税も不要、保険もコミコミということがお得に感じられます。また、ライフステージによって借りる車種を変えることができるなどのサービスがあります。一方で3年以上の契約に限定されていたり、走行距離の縛りがあったり、保険代も結局は毎月の利用料に含まれていたりするので、結果的に総支払い額が高くなるケースも考えられます。

新車は依然として人気があり、最新のピカピカな車に乗る高揚感、最新の機能・安全性・燃費など購入意向を刺激される要素が沢山あります。そして、さまざまな手法で売り出されますので、ひとつひとつ、どのような仕組みなのかをしっかり理解することが重要になるでしょう。

中古車であればリセールバリューの値下がりが新車ほどは激しくないこともあります。中古車を買って、乗り潰すという選択肢が一番購入代金を抑えられる場合もあります。

その他、カーシェアリング、レンタカーを利用する、タクシーに乗るという選択でも問題なければ交通費・車代を抑えることもできますので、今後のライフステージの変化や、生活スタイル、お金をかけるポイントとしての優先順位も鑑みて、検討されると良いと思います。

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