訪日外国人向けフリー切符で西武線乗りつぶしの旅

© 株式会社全国新聞ネット

 【汐留鉄道俱楽部】関東の大手私鉄・西武鉄道が、訪日外国人限定のフリー切符「SEIBU 1Day Pass+Nagatoro」を10、11月の期間限定で日本人向けに発売した。コロナ禍で入国制限のある外国人に代わってこの切符をフル活用し、西武線の乗りつぶしに加え、フリー区間内の秩父鉄道で長瀞(ながとろ)の紅葉を楽しみ、SL列車「パレオエクスプレス」も堪能する乗り鉄旅をした。

 まずは効率的な乗りつぶしのプランを立てる。池袋線、新宿線の2系統を中心に多摩湖線、国分寺線、狭山線などがかなり入り組んでいる路線図とにらめっこした。時刻が決まっているSLの前に池袋から西武秩父まで001系ラビューに初乗車し、SLの後は行きつ戻りつ、丹念に乗りつぶしていく。池袋からスタートしたかったが、西武有楽町線の小竹向原から入るとその後の行程がスムーズになることに気がついた。1500円のフリー切符は事前に池袋駅の「西武ツーリストインフォメーションセンター」(外国人向けの窓口)で引き換えた。縦7センチ、横12センチで、英語表記がメインの緑がかった硬券だった。

 久しぶりにわくわくした気持ちで出発日の朝を迎えた。予定通り7時40分すぎに小竹向原に到着。ここで切符に乗車日のスタンプを押してもらい、練馬経由で池袋へ。デビュー3年目のラビュー(特急ちちぶ7号)は、椅子の座面あたりから天井に近い荷物棚まで、規格外の高さを誇る窓の開放感がすごい。イエローのシートは車内では色のインパクトが強すぎて、車窓を楽しむには少し気になった。久しぶりの旅で非日常を味わいたかったが、真後ろの席の男性がパソコンのキーをパチパチ、パチパチと打つたびに、日常に引き戻された。

 

鉄道友の会が選ぶ2020年のブルーリボン賞を受賞した001系ラビュー。側面の大型窓、前面の球面ガラスは鉄道車両の概念を打ち破った

 途中の飯能はスイッチバック駅で、そこから進行方向が逆になった。車窓が楽しみな区間に入ったところで、後ろ向きに座った形で進むのは痛い。定刻より少し遅れて西武秩父着。秩父鉄道の御花畑まで少し分かりにくい道を5分ほど歩いて7500系(元東急8090系)に乗り継ぎ、10時半すぎに長瀞に着いた。

 先を急ぐ乗りつぶし旅は慌ただしいが、ここでは紅葉を見ようとSLの発車時刻まで1時間ほど空けてあった。ライン下りで有名な荒川沿いの岩畳、秩父赤壁付近に行ってみると、残念ながら見ごろ手前で色づきはいまひとつだった。

 そしていよいよSLに乗車。筆者の鉄道好きの原点はSLにあるので、乗りつぶしがメインの旅とはいえ、長瀞から三峰口までの1時間ちょっとが一番楽しみにしていたところだ。相変わらずSL人気は高く、窓際の席は予約できなかったが、機関車C58363のすぐ後ろの客車の一番前のボックスの通路側を確保。両サイドの窓が開いていて、汽笛はもちろん、煙や蒸気を排出するSLの「息遣い」を十分に体感できた。鉄橋の手前では、長い汽笛が渓谷に響き渡った。ただホームで短い汽笛を何度も鳴らし、直後に怒鳴り声が聞こえたこともあった。

 三峰口では改札を出ることなく、羽生行きの電車で御花畑に戻って西武秩父から西武線乗りつぶしの旅を再開した。スピード重視で、池袋行き特急ちちぶ28号に所沢まで乗車。今度はシートが後ろ向きの状態で発車した。つまり上りも下りも、池袋~飯能は前向き、飯能~西武秩父は後ろ向きにそれぞれ約40分ずつ乗ることになる。椅子の回転を禁止しているわけではなさそうだったので、所沢に着く手前で足元のレバーを操作したら簡単に回った。

 所沢からが乗りつぶし旅の「本番」。14時27分発の20000系電車に乗って狭山線で西武球場前へ。札幌から上京した1983年、ここで西武―巨人の日本シリーズを観戦した思い出がある(ちなみに今年の西武は42年ぶりの最下位に終わった)。改札口の手前の連絡通路を抜け、ゴムタイヤで走行する山口線の「レオライナー」に乗り換える。その1駅目が西武園ゆうえんち。昭和レトロをテーマに5月にリニューアルした同名施設は目と鼻の先にあった。

 山口線の途中駅はその駅だけで、すぐに終点の多摩湖に到着。3月まではここが「西武遊園地」を名乗っていたが、遊園地の新たなメインゲートに近い「遊園地西」を「西武園ゆうえんち」に改称したのに伴い、42年前まで名乗っていた「多摩湖」に戻った。1936年に「村山貯水池」として開業したこの駅は、その後「狭山公園前」「多摩湖」「西武遊園地」「多摩湖」と4回名称を変えた。

 

真新しい多摩湖の駅名標。隣の「武蔵大和」は巨大戦艦2隻の名前をつなげたような駅名だが、もちろん関係はない

 この駅名の変遷は、西武線の複雑な沿革のほんの1コマにすぎないだろう。詳しい歴史はインターネットでも公開されている西武ホールディングスの「写真で見る西武ヒストリー」などを参照していただくとして、先を急ぐことにする。

 多摩湖からは多摩湖線で途中駅の萩山まで行き、そこから拝島線で拝島まで往復、再び萩山に戻って多摩湖線で国分寺に出た。乗ったのは9000系、2000系と西武カラーの黄色い電車だった。国分寺からはJR中央線で新宿方向に三つ先の武蔵境へ。そこを起点とする多摩川線は、他の西武線と接続していないためかフリー切符の有効区間から除外されていたが、乗りつぶしの趣旨からPASMOを使って足を伸ばした。終点の是政まで「最後の西武顔」の101系電車で往復、17時38分に国分寺に戻った。

 11月の日の入りは早く、外は真っ暗。腕時計と行程表をチェックしながらひたすら予定を消化していく。国分寺線で東村山へ。そこから西武園線への乗り換え時間はわずか1分。乗ってきた電車と同じホームの先端が西武園線の乗り場だった。乗り換え客と思われる数人がホームを走りだしたので、私もついて走ったが、電車は乗り換えが済むまで待ってくれたようで、約2分遅れで発車した。

 1駅で終点の西武園着。同じ電車で折り返し、東村山からは30000系(スマイルトレイン)で本川越へ。そして19時02分発の小江戸42号で西武新宿に向かった。ニューレッドアローとも呼ばれる10000系電車の2号車に乗ったが、車内アナウンスが聞き取れないくらいモーター音が大きかった。

 19時50分、西武新宿に到着。だがこれで乗りつぶし旅は完結、とはならなかった。路線図が頭に入っている読者はお気付きかもしれないが、豊島線に乗っていない! 実は朝一番で練馬から豊島園まで往復しているはずだったが、スマホの乗り継ぎ検索アプリを使って予定を組んだ時に何らかのミスを犯し、練馬で乗ろうとした時刻の列車が存在しなかった。そこで豊島線に時間を使うとラビューに乗り遅れる恐れがあったため、最後に回したのだった。基本通りに時刻表のページをめくってプランを練っていれば、こんな失態はなかっただろう。

 というわけで山手線で池袋まで行き、豊島線直通の電車に乗り込んだ。20時30分、豊島園着。小竹向原で乗りつぶしをスタートしてから約12時間半が経過していた。達成感はなく、疲れもあって思考停止状態。訪日外国人観光客はこの切符を使ってこんな旅は絶対にしないだろう、という思いが脳裏をよぎった。

*****

 さらに原稿を書き終えた後、拝島線の小平―萩山に乗っていなかったことが判明した。萩山から拝島線で拝島まで行った後、新宿線の駅でもある小平まで行ってから萩山に戻らなければいけなかった。狭山線から山口線、多摩湖線、拝島線、国分寺線と流れるように乗り継ぐプランができた、と悦に入っていたため、詰めの確認が甘くなってしまった。穴があったら入りたい。

 ☆共同通信・藤戸浩一

この記事はいかがでしたか?