【解説】JR旅客各社の上下分離路線

この記事は下記記事の補完記事となっています。合わせて読むことをお勧めします。

今更聞けない鉄道事業者の区分について

鉄道路線は上と下が同じ事業者とは限らない

鉄道というものは、電車、気動車等の車両の他に、線路や駅、そして架線柱や変電所等の路線設備も含めて初めて成り立つものです。ですが、これらは必ずしも一つの会社だけが保有・管理しなければならない訳ではありません。車両の運行と運営だけ自社で担当して、残りの路線設備は他の会社の持ち物とし、そこへ線路使用料を払って列車を走らせる形を取っている鉄道会社が日本に多数存在します。

このように、運行・運営を行う組織とそのインフラの保有・管理を行う組織を分離させ、会計を独立させる方式を一般的に上下分離方式と呼びます。この方式は鉄道に限らず高速道路や一部の空港などでも採用されています。

この記事では数ある上下分離方式の鉄道路線の内、JR路線として営業している路線をご紹介します。なお一部の項目は前に書いた記事との重複する為簡単な説明(とその記事へのリンク)のみとさせていただきます。

各社ごとの上下分離路線(三島会社)

JR北海道(北海道高速鉄道開発)

JR北海道は北海道庁や各路線の沿線自治体とともに出資した第三セクター、北海道高速鉄道開発に石勝線・根室本線新得ー釧路間、宗谷本線旭川ー名寄間の高速化工事や、札沼線桑園ー北海道医療大学間の電化工事、及び各路線設備の管理・保有を委託しており、JRはそれらを借り受ける形をとっています。また、宗谷本線の特急列車に使われる261系0番台や、波動用の編成であるキハ261系5000番台等、一部の特急型車両を保有しており、それらを全てJRに貸し付けています。なお、第三種鉄道事業者ではありません。

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JR四国(瀬戸大橋区間)

鉄道道路併用橋としては世界トップクラスの規模を誇る瀬戸大橋。この橋を通る路線は本四備讃線で、JR四国が本州の児島まで運営していますが、このうち区間は四国唯一の上下分離区間であると同時に日本唯一の高速道路機構保有路線となっており、JR四国に貸し付ける形を取っています。また、保有する高速道路機構は高速道路公団の民営化にともなう上下分離で、「下」の部分を担当しており、鉄道においても高速道路においても「下」を担当している珍しい団体です。なおこちらも第三種鉄道事業者ではありません。

JR九州(豊肥本線高速鉄道保有)

豊肥本線の熊本から肥後大津までの区間は、熊本都市圏と言われているエリアで、よく慢性的な道路混雑が発生します。少しでも混雑を緩和して、都市圏の交通状況を緩和するために豊肥本線の輸送力強化が喫緊の課題でした。当時非電化だった豊肥本線を電化・高速化の上、行き違い設備の増設工事を行う事業主体として設立されたのが、豊肥本線高速鉄道保有でした。肥後大津までの電化後も、電化区間を保有してJRに貸し付けているほか、2015年までは815系電車を4編成程保有してJRに管理を委託しており、どことなく北海道高速鉄道開発に似たような存在です。なおやはりこの会社も第三種鉄道事業者ではありません。

各社ごとの上下分離路線(本州三社)

JR東日本

成田線(成田空港支線)

成田線の成田駅から空港方面に分岐する成田空港支線。実はJRの管理ではなく、成田空港高速鉄道という第三セクター会社が第三種鉄道事業者として保有・管理を行い、JRから線路使用料を徴収しています。同じく成田空港に乗り入れている京成本線の駒井野信号場から成田空港までの区間、及び京成成田スカイアクセス線の一部区間もこの会社が管理しています。JR線も管理している会社なのですが系列的には京成グループにあたります。JR・京成区間両方とも単線で、かつて成田新幹線として建設された設備を一部流用しています。

只見線(会津川口~只見間)NEW!

東北大震災から間もない2011年の7月に襲った新潟・福島豪雨によって、只見線は第五只見川橋梁などの設備が流出し、長期運休をせざるを得なくなりました。そして只見線は福島・新潟ワーストクラスの赤字路線。一年前にやはり大雨の影響で長期運休となっていた当時日本トップクラスの秘境路線、岩泉線の廃線及びバス転換の件もあって只見線にも廃線のムードが漂いつつありましたが、4年前に福島県が不通となっている会津川口ー只見間を第三種鉄道事業者として管理し、JRに貸し付ける形を取って復旧することが正式に決定しました。復旧工事は東日本が行い、その後福島県に路線設備が無償譲渡されます。復旧時期は来年(2022年)の秋ごろを予定しているとのことです。

JR東海(東海交通事業)

JR東海は新幹線も含めて全ての路線で第一種鉄道事業者として保有していますが、一つだけ他社に運営を任せている路線があります。それが東海交通事業(第二種鉄道事業者)の城北線です。他社と言っても、この会社はJR東海の100%子会社なのでほぼ上下一体方式みたいなものです。名古屋都市圏を迂回する形で建設された貨物線、瀬戸線のうち既に開通していた勝川ー枇杷島間を高規格な路線設備に似合わない単行気動車が数往復するのみのこの路線、経緯があまりにも複雑で長すぎるのでここでは割愛します。

JR西日本

JR西日本は、JR旅客社で唯一、第一種、第二種、第三種の鉄道事業区分をコンプリートしています。

七尾線(七尾ー和倉温泉ー穴水)

タイトルでは七尾線と書いてありますが、名実ともにJR七尾線として営業しているのは和倉温泉までの区間で、そこから先の非電化区間はのと鉄道の管轄になります。とはいえのと鉄道は七尾までの区間も含めて全区間第二種鉄道事業者の扱いとなっており、今現在自社管理の路線を持たない珍しい第三セクター鉄道となっています。JRは和倉温泉までは第一種鉄道事業者として、和倉温泉からの非電化区間は第三種鉄道事業者としてのと鉄道から線路使用料を徴収しています。

詳細記事:生贄電化~一部区間を犠牲にして電化した二つの路線~

山陰本線(嵯峨野観光線区間)

国鉄末期からJR初期にかけて行われた山陰本線(嵯峨野線)複線電化及び高速化工事が真っ先に行われたのは、嵯峨嵐山から馬堀までの所謂保津峡区間でした。この区間は風光明媚な名所でもあったため、新線に切り替えられてからも復活の要望が内外から強くあり、その要望にJRが応える形で新線切り替えから二年後の1991年、同区間の8割を嵯峨野観光鉄道(第二種鉄道事業者)として復活させました。この区間はあくまでも山陰本線の別線という体を取っているため、第一種鉄道事業者として保有するJRに、同社が線路使用料を支払っています。

おおさか東線

関西で一番新しい通勤路線ことおおさか東線は、本来貨物線として建設されたものを旅客線として営業できるように改良された、関東でいう武蔵野線のポジションにあたる路線です。前身の城東貨物線時代は西日本が第一種、JR貨物が第二種の関係でしたが、放出ー久宝寺間の旅客化に伴い、おおさか東線旅客化の事業主体である大阪外環状鉄道が第三種鉄道事業者として路線設備を保有することになり、JR西日本と貨物はそれぞれ第二種として同線の運営を行っています。後の新大阪への延伸区間も同様です。

JR東西線

片町線と福知山線を連絡する片福連絡線として建設されたJR東西線も、上記のおおさか東線の例にならって、事業主体の関西高速鉄道が京橋ー尼崎間を第三種鉄道事業者として保有し、JRは第二種として列車の運営を行っています。また、関西高速鉄道は大和路線JR難波駅及び南海本線新今宮駅から中之島を経由してうめきた地下駅にいたるなにわ筋線についても事業主体になることが決定しています。(了)

【著者】ミシンロボ

日本全国の鉄道を「日帰り」で旅するライター。 日本全国の鉄道路線を完乗済みです。色々な鉄道の情報を独自の視点から発信します。

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