同点決戦、アブダビへ。フェルスタッペンの見せたアグレッシブさはメルセデスに“劣る”自覚からか

「速さは足りなかった。でも2位はうれしい」。

 チェッカー後の無線ではそう語っていたマックス・フェルスタッペン。しかし表彰式では笑顔もなく、シャンパンファイトに興じるメルセデスのふたりを尻目に、ステージ裏へと姿を消していった。

 予選のフェルスタッペンは、まさに圧巻だった。終了1分前、Q3最後のアタックで、ルイス・ハミルトンが暫定ポールの座をフェルスタッペンから奪い取ると、すかさずセクター1、2で全体ベストを叩き出し、この時点でハミルトンに対し0.2秒のリードを築いた。最終区間でも勢いは衰えず、最終コーナー進入の瞬間に車載カメラが映し出したダッシュボード上の表示によれば、自身のベストタイムを0.41秒上回っていた。しかしブレーキングでわずかに左フロントをロックさせたフェルスタッペンは、立ち上がりで膨らんでアウト側のバリアにヒット。バルテリ・ボッタスにも先行され、3番グリッドが確定した。

 それでも予選後のフェルスタッペンは「僕らが速いのは分かっているから、レースではメルセデスにいい一撃を与えることができると思う」と、レースでの巻き返しを誓っていた。

 だが結論から言えば、決勝レースでのフェルスタッペンに予選時のような圧倒的な速さはなく、絶好のタイミングでの赤旗中断という幸運を完全に引き寄せることもできずに、ハミルトンの後塵を拝する結果となった。

 最初の波乱は9周目。ミック・シューマッハーのクラッシュだった。車両撤去のためにセーフティカーが導入されると、1-2を形成していたメルセデス2台がともにピットに向かい、ハードタイヤに交換した。残り40周前後を、ノンストップで走り切る戦略だ。

 フェルスタッペンはステイアウトを選択し首位に立った。競技長のマイケル・マシは事故処理に時間がかかると判断し、レースは13周目に赤旗中断。赤旗中のタイヤ交換は自由であり、フェルスタッペンは労せずして首位をキープしながら、ハードタイヤに交換することができた。

 しかし再スタート時のフェルスタッペンの加速は鈍く、イン側のハミルトンがターン1のブレーキングで前に出た。ランオフにはみ出したフェルスタッペンはターン2をショートカットしながら先頭でコースに復帰。前をふさがれたハミルトンはエステバン・オコンに先行され、3番手に後退した。

 その直後にセルジオ・ペレスがクラッシュ。後続の玉突き事故も起き、二度目の赤旗中断となった。ここでマシ競技長はハミルトンに順位を戻すかどうかの選択肢をなぜかレッドブルに与え、オコン、ハミルトン、フェルスタッペンのグリッド順で落ち着いた。

 1回目のリスタートの反省から、スタートダッシュ重視のミディアムを履いたフェルスタッペンは、ターン1の攻防で2台に先行し首位を奪い返した。ハミルトンもすぐにオコンをかわし、そこからは上位2台が異次元の速さで最速ラップを更新し合う。

 とはいえハミルトンのペースは明らかに優っており、36周目のターン1でフェルスタッペンは再びコースアウトしながら首位をキープ。ペナルティを懸念し順位を譲ろうとしたフェルスタッペンは、ターン26で急減速。ハミルトンは反応できずに接触してしまう。

 再び42周目に首位を譲ったフェルスタッペンは直後に抜き返すが、次の周に再度ハミルトンを先行させた。そこからはタイヤが垂れ、ハミルトンが独走状態に入る。ターン2の攻防とターン26の急制動で計15秒のペナルティを科されたフェルスタッペンは、22秒の大差をつけられ2位に終わった。

 フェルスタッペンのドライビングは、たしかにアグレッシブさが目立った。それはマシンの戦闘力において、メルセデスに“劣っている”という自覚からくるものだったのではないだろうか。ブラジル、カタール、そしてサウジアラビアでのハミルトンは、予選でも決勝でも速さがあり3連勝を果たした。

 タイトルを争うふたりが同ポイントで最後の1戦を迎える状況は、長いF1の歴史でも初めてではないか。最終戦アブダビはより高速に、より抜きやすいレイアウトにすべく、コースの大幅改修が施された。コース特性的には、直近3戦の特性に近づいたという見方もできる。ここまでの嫌な流れを、レッドブル・ホンダは果たして断ち切ることができるだろうか。

※この記事は本誌『auto sport』No.1566(2021年12月10日発売号)からの転載です。

2021年F1第21戦サウジアラビアGP リスタート時のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)の攻防
2021年F1第21戦サウジアラビアGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)が接触
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