ジェンダー平等、実現のカギは民主主義

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2017年4月、大統領選前に演説する文在寅氏に1人の活動家がレインボーフラッグを持って乱入した (Keystone / Yonhap)

スイスの国民投票で同性婚の合法化が賛成大多数で可決されたことで、直接民主主義がジェンダー平等を促進できることが示された。しかし、世界に目を向けると、これは過去も現在もそれほど当たり前ではないことが分かる。

9月末、スイスの国民投票結果を祝う別の形のパーティーが、韓国の首都ソウル南部にあるゲイ男性の権利団体、チングサイ(Chingusai)のオフィスで行われた。「スイスの最初の開票結果が発表されたときは、みんなで歓声を上げた」とキム・ムンジンさんは言う。

35歳の商社員で、LGBTQの活動家でもあるキムさんはその夜、性的少数者の公式な集いに参加していた。そうした集いは韓国にはわずかしか存在しない。「スイスの国民投票で明白な結果が出たことに勇気づけられて、私たちはここ韓国でも同性婚合法化を求めて署名活動を始めようと思った。性的少数者の権利を巡る公的な議論ではこれまで、保守派や教会系の人々が優勢だった」

今年9月26日に行われたスイスの国民投票は、投票者の64.1%が同性婚に賛成するという歴史的な投票となった。2015年に同様の国民投票を行ったアイルランドの賛成率は62%だったが、今回はその世界記録を上回った。このことからも、この国民投票は歴史的だったと言える。

米ワシントンDCのジョージタウン大学のナン・D・ハンター名誉教授(憲法学)は、「ジェンダー平等という重要な問題が国民投票で前進したことで、世界的な転換が加速するだろう。数十年前までは、直接民主主義のプロセスは性的少数者の権利を妨げるために用いられていた」と語る。

米国の州レベルおよび基礎自治体レベルの住民投票で、過去50年間に最も多く問われた案件はジェンダー平等に関するものだった。「2000年初頭までに行われた150件以上の住民投票のうち、性的少数者の平等に反対する人たちが勝利したものは4分の3に上る」とハンター氏は言う。しかし状況は変わった。「支持派が戦略を変更したことで、米国に転換点が訪れた。彼らは少数派に特別な権利を認めるよう求めるのではなく、民主主義の基本権である法の下の平等を住民発議や投票キャンペーンの焦点に据えることにした」

それは時代精神に沿ったものであり、政治的中道派のみならず、裁判所をも納得させるものだった。米国の連邦最高裁は2015年6月、平等な婚姻の権利に反するすべての措置を違憲とし、長年の争いに終止符を打った。同性婚の合法化を国民投票で可決したスイスを含め、「すべての人に結婚の自由を」認めている国は現在、世界29カ国に上る。

しかし、世界的にみると、ジェンダー平等を強化する目的で国民投票を利用することは、諸刃の剣を振りかざすことと同じと言える。ドイツ語で授業を行うハンガリー・ブダペストのアンドラーシ大学学長、ゾルタン・ティボール・パリンガー氏は「(吉と出るか凶と出るかは)国民投票が実施される条件による」と語る。

フィンランド、台湾、オーストラリアなどの国では近年、イニシアチブ(国民発議)やレファレンダムを通して同性婚の合法化が実現した。一方、国家保守主義のハンガリー政権は現在、「上から」の国民投票、つまり国主導による国民投票を通して、国内の性的少数者に反対する世論を助長しようとしている。

パリンガー氏はswissinfo.chの取材で「オルバン首相は性的少数者の権利を巡る国民投票を利用して、野党の弱体化を目論んでいる」と語り、こう付け加えた。「しかし、ハンガリーでも市民自らが国民投票の実施を求めることは可能なはずだ」

ブダペスト中心部で行われた、性的少数者に関する新法反対デモに参加した教師のアーグネス・エルデシュさん(40)は、「今度こそオルバンに社会を分裂させてはならない」と語る。女性パートナーと長年一緒に暮らしているエルデシュさんは、確信に満ちた口ぶりでこう語る。「保守的なスイスでさえ、同性婚の合法化を賛成大多数で可決できるのだ。ならば、私たちはここハンガリーで逆の方向に進むわけにはいかない」。実際、オルバン政権が公布した法律が国民投票で可決されれば、性的少数者の権利はさらに制限されるという。「そうなったら、私は国外に移住するだろう」

スウェーデン・ヨーテボリ大学の研究機関「V-Dem」が発表した新しい報告書では、民主主義とジェンダー平等の度合いに明らかな相関性があることが示された。V-Demの研究員、ナジファ・アリジダ氏は「ジェンダー平等を支持する人の割合は、権威主義の国では民主主義国家よりも平均約 66%低かった」と述べる。

この相関関係は、同性婚の合法化に対する各国の対応を見ても明らかだ。例えば、V-Demの民主主義ランキングで第5位、世界経済フォーラム(WEF)のジェンダー平等ランキングで第10位のスイスは同性婚合法化を明確に支持した。一方で、それぞれ89位、99位のハンガリーは拒否している。韓国はこの2つのランキングでほぼ正反対の順位だが、そのことが韓国の人々に多少の希望を与えている。韓国は現在、ジェンダー平等ランキングではハンガリーより下の102位だが、民主主義ランキングでは世界で最も優れた民主主義国家トップ20に入っている。

解決策は直接参政権?

LGBTQ活動家のキムさんは、韓国では同性婚の合法化に対して保守キリスト教派が激しく反発しているとの認識だが、韓国の元女性家族部長官、李貞玉(イ・ジョンオク)氏も同じ意見だ。「それが一因となって、選挙で選ばれた政治家も裁判所も、このテーマに触れようとしない」(李氏)

打開策の1つとして李氏が考えるのは、直接参政権の強化だ。韓国には、そうした権利はまだ地域レベルにしかない。全国レベルでは今のところ、憲法改正に伴う強制的な国民投票があるだけだ。しかし、韓国の国会では全国レベルにおける直接参政権の改革について議論が行われている。

近年の動向から分かることは、直接参政権もマイノリティーの平等な権利も、一方が強化されればもう一方も強化されるということだ。だが民主主義が弱体化した時はその逆が起こる。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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