【中医協】「令和4年度診療報酬改定への意見」を厚労相に提出/支払い側「引き上げる環境にない」、診療側「プラス改定しかあり得ない」の意見併記

【2021.12.10配信】厚生労働省は12月10日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、中医協としての「令和4年度診療報酬改定への意見」をとりまとめ、厚生労働大臣に提出した。その場では厚労大臣の代理として、大臣官房審議官(医療保険担当)の榎本健太郎氏が受け取った。

同日の中医協では、これまでの議論を踏まえ、公益側から令和4年度診療報酬改定についての案が示され、議論された。
提示された公益側の案に支払い側・診療側ともに異論がないとし、案の内容で厚労大臣に意見書を提出することになった。

決定された中医協としての「令和4年度診療報酬改定への意見」は以下の通り。

1.医療経済実態調査の結果について
○ 本協議会は、医業経営の実態等を明らかにし、診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的として、第 23 回医療経済実態調査を実施し、その結果等について検討した。

2.薬価調査及び材料価格調査の結果について
○ 薬価調査の速報値による薬価の平均乖離率は約 7.6%、材料価格調査の速報値による特定保険医療材料価格の平均乖離率は約 3.8%であった。

3.令和4年度診療報酬改定について
○ 我が国の医療については、人口減少・少子高齢化が進展するとともに、人生 100年時代に向けた「全世代型社会保障」の構築が求められる中で、世界に冠たる国民皆保険を堅持し、あらゆる世代の国民一人一人が安全・安心で効率的・効果的な質の高い医療を受けられるようにすることが必要である。また、新型コロナウイルス感染症を含め、医療を取り巻く環境の変化や多様な国民のニーズに柔軟に対応することが重要である。

○ 社会保障審議会医療保険部会及び医療部会において取りまとめられた「令和4年度診療報酬改定の基本方針」(以下「基本方針」という。)では、新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築や、安心・安全で質の高い医療の実現のための医師の働き方改革等の推進、患者・国民に身近であって、安心・安全で質の高い医療を実現するための取組を進めつつ、効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上を図ることが示された。

○ 本協議会は、この基本方針に基づき、全ての国民が質の高い医療を受け続けるために必要な取組についての協議を真摯に進めていく。こうした基本認識については、支払側委員と診療側委員の意見の一致をみた。

○ しかし、このような基本認識の下で、どのように令和4年度診療報酬改定に臨むべきかについては、次のような意見の相違が見られた。

○ まず、支払側の意見は次のとおり。医療経済実態調査の結果、医療法人の病院は黒字を維持し、一般診療所、歯科診療所、保険薬局は依然として高い水準の黒字である。さらに、新型コロナウイルス感染症関連の補助金を含めた場合には、総じて医療機関の経営は安定している。単月調査の結果から直近の状況をみると、令和3年6月の損益差額は、令和2年6月と比べて概ね改善し、一般診療所の損益差額は令和元年6月を上回った。こうした状況に加え、国民皆保険制度の長期的な持続可能性を高めつつ、医療提供体制を新興感染症にも強い効率的・効果的な仕組みへ再構築することや、高い水準の自然増を考えれば、令和4年度は診療報酬を引き上げる環境になく、国民の負担軽減につなげるべきであり、配分の見直しに主眼を置いたメリハリのある改定とする必要がある。薬価等については、イノベーションの推進にも配慮しながら、市場実勢価格の低下に伴う公定価格の引き下げ分を、長期的に上昇し続ける負担の抑制のために還元されなければ、国民の理解は得られない。

○ これに対し、診療側の意見は次のとおり。医療経済実態調査の結果をみても、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が医療機関経営に大きな打撃を与え、期中、診療報酬において臨時的な対応をとったにもかかわらず、収益は大きく悪化した。新型コロナウイルス感染症関連の補助金を含んだ場合でも、損益差額率は一般病院でほぼプラスマイナスゼロ、一般 診療所では前々年度よりも縮小しているなど医療機関等の経営はきわめて厳しい。また、急な新興感染症等の流行などの有事の際にも即座に対応できるよう、平時の医療提供体制の余力が必要であり、あわせて、医師等の働き方改革が確実に実行できるようにするとともに、医療機関等がそれぞれの状況に応じて幅広く、かつ恒久的な賃上げを行うことができるだけの原資を確保する必要がある。こうした状況等から、国民の安全を守るためには、地域の医療と医療従事者を支える適切な財源が必要であり、令和4年度の診療報酬改定では、薬価財源は診療報酬に充当した上で、プラス改定しかあり得ない。

○ 本協議会は、社会保険医療協議会法でその組織構成や、審議・答申事項等を法定されており、医療保険制度を構成する当事者である支払側委員と診療側委員、そして公益委員が、医療の実態や医療保険財政等の状況を十分考慮しつつ、診療報酬改定の責任を果たしてきた。
診療報酬改定は、基本方針に沿って、診療報酬本体、薬価及び特定保険医療材料価格の改定を一体的に実施することにより、国民・患者が望む安心・安全で質の高い医療を受けられるよう、医療費の適切な配分を行うものである。そのために、本協議会においては、これまでも医療制度全体を見渡す幅広い観点から、膨大な時間を費やしデータに基づいた真摯な議論を積み重ね、診療報酬改定に取り
組んできており、これからもそのように取り組み続けていく。

○ 厚生労働大臣におかれては、これまでの本協議会の議論を踏まえ、令和4年度予算編成に当たって、診療報酬改定に係る改定率の設定に関し適切な対応を求めるものである。

○ また、新型コロナウイルス感染症への対応をはじめ、医療機能の分化・強化・連携、保健・医療・福祉の更なる連携、医療従事者の働き方改革や処遇改善、地域・職域等における予防・健康づくりの取組、費用対効果、新しい医療技術など、我が国の医療に関する様々な課題を解決するため、診療報酬のみならず、補助金、税制、制度改革など、幅広い施策を組み合わせて講じていくことが重要である。その際、施策の成果や健康への影響等をデータやエビデンスに基づいて正確・迅速に把握・検証し、更なる施策の見直しに役立てるという姿勢を強める必要があり、そのための人材・体制の充実が望まれる。

○ さらに、国民一人一人が医療提供施設の機能に応じ、適切に医療を選択し受けるよう努めることも重要である。医療が高度化し、制度が複雑化する中でも、できるだけ仕組みを分かりやすくし、患者の主体的な選択を可能とする医療の質を含めた情報提供を行うなど、国民の理解を一層深める工夫についても配慮が行われるよう望むものである。

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