部屋に花を置くと、それだけで豊かな気持ちになりませんか。
笠岡市五番町にあるフローリスト萬(まん)は、地域に根付いた花屋。訪れると、子どもたちがお母さんと楽しそうに花を選んでいました。
出迎えてくれたのは、フラワーアートディレクター 萬木 善之(まんき よしゆき)さん。
萬木さんの作品を一度は見たことがあるかもしれません。
なぜならフィギュアスケート国際大会の通称「メダリストブーケ」を長年、手掛けているからです。
「萬木さん、『あの姿』もカメラに収めさせてください」とお願いすると…。
コケでできたジャケットに、花のネクタイ、コケの帽子。
独創的な姿で登場!
萬木さんはこのような数々のユニークな作品を生み出しています。
フローリスト萬と、「植物で人を笑わせる」をテーマに活動するフラワーアートディレクター 萬木 善之さんについて紹介していきましょう。
地域に根付いた花屋 フローリスト萬
フローリスト萬の歴史は、萬木さんの曾祖母の代までさかのぼります。
もともとは砂糖を販売していましたが、戦争で砂糖の配給がなくなって、「何か始めよう」とスタートしたのが花屋だったそうです。
創業当時は笠岡市内の別の場所にお店がありましたが、萬木さんが物心ついたときにはすでにお店は五番町に。
このお店ができ2021年現在で約45年が経ちます。
生花をはじめ、観葉植物やプリザーブドフラワー、せっけんでできたいい香りのフレグランスフラワーなどがずらりと並び、店内は実にカラフルです。
生花のアレンジメント・花束
アレンジメントや花束は、鮮度を保つため、オーダーごとに要望や予算を聞いてから制作しています。
電話での予約も可能です。
およそ9割のお客さんが、花の指定は特にない「お任せ」。
フィギュアスケート選手たちのメダリストブーケを手掛ける萬木さんがおもに制作するので、幅広い要望に対応してもらえます。
プリザーブドフラワーとフレグランスフラワー
プリザーブドフラワーとは、生花に特殊な加工を施した花。そうすることで、生花より格段に長い期間、美しさを楽しむことができます。
プリザーブドフラワーに替わって人気が出てきているのが、フレグランスフラワー。
見ためは本物の花のようですが、せっけんでできた造花で、お部屋に置くといい香りがします。
せっけんといえども、洗浄用ではないので、バスタイムなどに使用するには不向きです。
プリザーブドフラワーもフレグランスフラワーも、お部屋に長く飾ることができ、贈り物にぴったり。
そのほか、ワンランク上の造花、「光触媒フラワー」も取り扱っています。
光触媒フラワーとは、造花に光触媒酸化チタンをスプレーでコーティングしたもの。
太陽や蛍光灯の紫外線により触媒反応が働き、生活臭を取り除いて部屋をきれいな空気に保ってくれる優れものです。
観葉植物・ドライフラワーなど
そのほか、観葉植物やドライフラワーも手に入ります。
部屋に緑があると癒されますよね。水やりのたびに愛情がわきそう。
花のある暮らしは憧れるけど、お手入れが難しく感じるときには、ドライフラワーだと取り入れやすいのではないでしょうか。
お部屋が華やかになり、心が満たされそうです。
フラワーアートディレクター 萬木 善之さんのユニークな作品
フローリスト萬の萬木 善之さんは、ユニークな作品の数々を手掛けるフラワーアートディレクターです。
作品の一部を紹介します。
フィギュアスケートブーケ
1998年より2021年現在まで、フィギュアスケート国際大会の歴代メダリストブーケの制作をしている萬木さん。
店頭には、有名選手との写真もたくさん飾られていましたよ。
扇子のブーケや、ケーキの形をしたブーケ、羽子板のブーケなど、オリジナリティにあふれたものを多く手掛けてきました。
扇子のブーケはあおぎたくなりますし、 ケーキの形をしたブーケはかじりたくなります。
そんな選手たちの反応も意識して制作しているのだとか。
秘密の花園
花でできたトイレはその名も「秘密の花園」。
「トイレでとーとー作ってみました」と、こちらもダジャレがきいています。
笠岡駅前のポスト
笠岡駅を利用したときに、花で彩られたポストを見たことがありませんか。
そのポストを手掛けたのも、萬木さんです。
2015年から2年間、春はポピー、夏はひまわり、秋はガーベラでハロウィンを表現し、冬は赤いバラでクリスマスを表現。
ポピーとひまわりは道の駅 笠岡ベイファームの花畑でおなじみです。
ガーベラはキク科で、笠岡が菊の産地であることから採用。また、笠岡にはバラの生産者も多いのだとか。
笠岡愛にあふれた華やかなポストは、人気のフォトスポットとして話題になりました。
花のみならずコケでも作品制作
花だけでなくコケでもアートが繰り広げられています。
2012年に完成したのが、コケで覆われた車、「えっ!コケカー」です。「エコカー」と「コケ」をかけた名前となっています。
「光合成で走っています」もジョークのひとつ(実際はガソリンで走っていますよ)。
2013年には、福山市で「笑いコケ展」を開催した萬木さん。
苔で作られたニワトリが「コケコッコー」。
「コケティッシュ」など、ダジャレで笑いコケられる展示が話題に。
コケのジャケットやネクタイ(コケタイ)は、萬木さんのトレードマークでもあります。
「コケでできているから、お手入れが大変そうですね」と心配すると、「そうそう、霧吹きでお手入れしてるからずっしりと重いんです…というのはジョーク! 実際はフェイクです」とのこと!
フローリスト萬での展示会も
2019年にはフローリスト萬で「ZOO ZOO TOWN 〜小さな花屋の動物園〜」を開催。
キリン、象、猫などの動物を花で制作し、子どもからお年寄りまで幅広い世代が鑑賞しました。
こちらもダジャレがきいています。
2020年には笠岡市の帽子メーカー「石田製帽」とコラボレーションし、麦わら帽子に花を飾って展示する「花と帽子の芸術か?」を開催。
500円でユニークな帽子をかぶって撮影が楽しめるシステムです。
収益は医療従事者に役立ててほしいと、当時貴重だったマスクの寄付費に充てました。
オリジナリティあふれる創作のアイデアは、どんな思いから生まれたものなのでしょう。
フラワーアートディレクター 萬木 善之(まんき よしゆき)さんにお話を聞きました。
フラワーアートディレクター 萬木 善之さんにお話を聞きました
地域に根付いた花屋「フローリスト萬」で花を提供しながら、さまざまな作品を制作する フラワーアートディレクター 萬木 善之(まんき よしゆき)さんにお話を聞きました。
「うまくなりたい」から「笑わせたい」へ
──フラワーアートディレクターになるまでの経緯を教えてください。
萬木(敬称略)──
フローリスト萬は、曾祖母、祖父、父と継いできた花屋です。
「お花屋さん」といえば女の子のイメージがあり、幼少期はちょっと恥ずかしかったりもしましたが、私は長男。いずれ継ぐということは頭にありました。
大学で花とは関係ない商学部を卒業したあと、東京にあるJFTD学園日本フラワーカレッジに入学。フラワーデザインや生け花を学びました。
もともと創作が好きだったこともあってか、「花の世界ってこんなに奥深く、おもしろかったんだ」とハマっていったんです。どんどん技術を覚えました。
縁あって、スウェーデンのフラワーショップから声がかかり、1997年にデザイン部門を担当させてもらえるように。
日本の花の業界では、現場に出るまでになかなか時間がかかった時代。ヨーロッパであればさまざまな経験が積めると考え、スウェーデンに行くことに迷いはなかったです。
半年間働きながら、休みの日はフランス・イギリス・オランダ・ドイツ・デンマークなどを旅し、現地のフラワーデザインを学びました。
ヨーロッパでは、日本よりも花束を贈る文化が盛んなんです。いい経験になりました。
帰国後はフローリスト萬へ。花束を作ったり、配達をしたりしながら、フラワーアレンジメントやオブジェのさまざまなコンテストに挑戦し、賞を多くいただきました。
1998年以降、フィギュアスケート国際大会の歴代メダリストブーケの制作をさせていただいています。
選手たちが満面の笑みでブーケを掲げてくれたり、マカロンを採用したブーケをクンクンと嗅いでくれたり。
何か反応をしてもらえるのがうれしいですね。そんな選手たちの反応は、観客にとってもうれしいもの。
「えっ!コケカー」でも、花のポストでもそうですが、「植物で人を笑わせる」をテーマに活動しています。
ダジャレをたくさん使うのも、そのためなんですよ。
──まさに笑わせてくれる作品が多いです。「植物で人を笑わせる」というコンセプトはどのように生まれたのでしょう。
萬木──
2011年の東日本大震災の後、自分も力になりたいと、「ひまわり復興支援プロジェクト」を立ち上げました。
福島県の子どもたちが絵を描いたピンポン玉にひまわりの種を入れ、それをアメリカのネバダ州へ運び、そこからさらに気球で成層圏に飛ばした種を福島の大地に撒いて花を咲かせるというプロジェクトです。
アメリカの砂漠に向かって車を運転しているときに、同乗していた福島県から来たカメラマンが、突然、こう話したんです。
「自分は病気で目が見えなくなるかもしれない」
目が見えなくなると、カメラマンとしては活動できなくなりますよね。衝撃でした。
でも彼は最後まで「明るく子どもの笑顔の写真を撮り続けたい」と言っていて、とても心に響きました。
自分にできることは何だろうと考え、その場で「それなら自分は植物で人を笑わせる」と彼に伝えたんです。
あとは、岡山県内のさまざまな勉強会に参加するなかで、講師のかたに言われた「お花は人を感動させるから」という言葉も印象的でした。
それまでは、コンテストで優勝することや、自分が作りたいものを作ることに制作のベクトルが向いていましたが、こういった出会いがきっかけで、見てくれた人に笑ってもらえるような作品を制作したいと思うようになりました。
「じゃあ、どうやったら笑ってもらえるだろう?」と考え、驚きがあるものを作ったり、ダジャレを使ったりしています。
植物が秘めるパワー
──ユニークな発想はどのように生まれるのですか。
萬木──
職業病のようなもので、ずっと考え続けています(笑)
生活のなかでも考えるし、異業種のかたと話すことで新たな気づきがあることも。
違うものを掛け合わせると、これまでにない発想が生まれますから。
石田制帽さんとのコラボレーションは、まさにそう。
植物を帽子にディスプレイすることで、着脱が可能になり、変身できます。やっぱり人って、変身したいんですよね。
写真にその姿が収められるということもあり、好評でした。
店でのお客様との会話がヒントになることもあります。
「こんな作品を作ってほしい」というアイデアがあるかたは、ぜひフローリスト萬に来てほしいです。
──今後チャレンジしたいことはありますか。
萬木──
店の奥に大きな冷蔵室があるのですが、あまり使わなくなったので、思い切って来年(2022年)、展示スペースにしようと計画中です。
地域の花屋でありながら、遠くから足を運んでもらえる観光スポットにもなればと思っています。
また、植物で人を笑わせる活動を通し、笑いはストレスマネジメントや医療にもつながると知りました。
たとえば、笑うことで免疫力が上がり、ストレスや痛みを軽減するといった研究結果が出ています。
家に植物を置くとなんだか癒される、というかたもいるでしょう。
植物がストレスを軽減することは多くの研究で明らかになっているんです。
季節ごとの花や植物、香りや感触。視覚以外の感覚でも楽しめるのが植物です。
これからも花屋の枠を越えて、いろいろなかたとおもしろいチャレンジをしていきたいと思います。
おわりに
ダジャレがたくさん詰まった萬木さんのインタビュー。
私自身も笑いコケていましたが、お話を聞きながら「笑わせたい」という萬木さんの思いは周りの人への愛情でもあるのだな、と感じました。
植物がもつ可能性にも気づかされます。
これからフローリスト萬がどんな場所になるのか、どんなコラボレーションが生まれるのか、とても楽しみです。