<書評>『琉球王国の成立と展開 よくわかる沖縄の歴史』 従来論への容赦ない検証

 本書は2018年1月から20年3月までの間、著者が『琉球新報』紙に連載した沖縄の歴史をめぐる13話の中から10話を選び、まとめた一冊である。著者は本書の前にも『沖縄史を読み解く』と題した5巻9冊の著作を物していた。本書では「その中から本質的なことを選び出し、その要約版にしよう」と考え、まずは琉球国の成立から島津侵攻までを取りまとめたと述べている。
 10話の表題は、第1話農耕はいつ始まったか、第2話グスクは戦いの砦か、第3話按司は武士なのか、第4話琉球王国はなぜできたか、第5話三山は武力で統一されたか、第6話阿麻和利の乱はあったか、第7話「大交易時代」はあったか、第8話尚真の時代は「黄金時代」か、第9話琉球中世に租税はあったか、第10話日本と琉球の社会、どう違うか、である。
 いずれの表題もこれまでの琉球・沖縄史研究で積み上げられてきた概説的理解論について、果たしてそれで良いのかという疑問を投げかけている。すなわち、著者はこれまでに琉球・沖縄史研究分野で発表された膨大な量に上る著書や論文を丹念に読み込んだ上で、専門とする農業経済学の視点から批判を加え、これらの表題に対する自らの見解、時には新たな理解論の提示を試みているのである。
 本書の筆勢は琉球・沖縄史研究の大家から新鋭の考古学、歴史学者に至るまで、全く容赦がない。各研究者の論旨を吟味の俎上(そじょう)に上げ、己の是とするところ、非とするところを徹底的に検証し、筆者なりの結論に到達する。
 この知的営みの意図は文末に示された「私の議論は沖縄の弱さ、遅れを書き立てていると読む人が多いと思う。違う。事実はどうだったのかという追及の中で遅れや弱さをあぶり出してしまったということだ」という言葉に収斂(しゅうれん)される。筆者は「沖縄の歴史」を自らの目で見極めようとしているのだ。
 本書に示された琉球・沖縄研究の概説的理解論に対する筆者の疑問とこれに対する回答を紡ぎ出す過程は、多くの読者にとっても歴史を学ぶ上での道標となるに違いない。一読をお勧めしたい。
 (池田榮史・国学院大教授)
 くりま・やすお 1941年那覇市生まれ、沖縄国際大名誉教授。主な著書に「沖縄の農業(歴史のなかで考える)」「沖縄県農林水産行政史 第1.2巻」「沖縄経済の幻想と現実」など。

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