台湾の富裕層で広がる「シェア買い」 消費者グループ代表が商品発掘【世界から】

日本からの海産物ではカニやウニは常に人気だ(小雨さん提供)

 「輸入品のシェア買い」が台湾の富裕層で広まっている。「キー・オピニオン・リーダー(KOL)」と呼ばれる消費者グループの代表が、自分の目利きと交渉力を武器に商材を見つけ、購入者を募り販売するシステムだ。世界が深刻なパンデミックに見舞われても高い経済成長を続けてきた台湾。富裕層は消費にも依然積極的だ。(共同通信特約ジャーナリスト=寺町幸枝)

 ▽「三方よし」のビジネスモデル

 KOLはもともと医療品メーカーが販売促進を行う際の用語で、医療業界に影響力を持つ医師を指していた。それが専門性を持った消費者グループの代表を指す一般的なマーケティング用語になった。消費者の購買行動に影響を与えるインフルエンサーは、これはという商品を人々に知らせるだけだが、KOLは購入・販売まで行う。当然、グループメンバーからの信頼が鍵になる。消費者グループの代表として絶対的信頼を勝ち得るために、商材を自ら発掘したり、企業から提案された商材をじっくり試したりした上で、これはという商品だけを販売する。そのため選定には細心の注意を払う。

 ブログ「ロリーナの幸せキッチン」の運営者は「焦げ付かないフライパンセット」を半年間利用し、コーティングがはがれないことを確認した上で10万人のグループに販売した。

 消費者への価格面のメリットは大きい。「KOLが生産者から製品をまとめ買いすることで、消費者は通常の小売価格よりも2割ほど安く購入することができる。輸送コストも生産者の負担だ」と話すのは、KOLとして日本の高級食材を提供している小雨さん(仮名)だ。

シェア買いの顧客へ自ら商品を届ける小雨さん(小雨さん提供)

 以前は広告関係の仕事に携わっていたが、より高収入が期待できるKOLビジネスに関わるようになったという。事前に予約販売することで、仕入れリスクが最小限に抑えられる上、グループ買いによる手数料利益も少なくない。何よりも、自分自身が欲しいと思っている商品を安く購入できる。広告業界で身に付けてきたネットワークやマーケティング感覚を生かし、仕事を広げたという。

 メーカーもマーケティングや広告など商品販売にかける費用を削減できる上、KOLを通じて消費者にダイレクトに商品を紹介できる。そして消費者は市場より安い価格で質の高い商品を手に入れられる。まさに「三方よし」のビジネスモデルだ。

 ▽プラットフォーム化がさらに後押し

 KOLの人気に目を付け、そのポータルとなるサイトも現れた。「meimaii(メイマイ)」もその一つだ。meimaiiは台湾国内でKOLを育成し、シェア買いの販売管理や支払い管理のプラットフォームを提供する。台湾の経済誌「経理人」は、meimaiiのビジネスを「何百人ものKOLが消費者の購買をガイドするので非常に効率が良い。企業は無駄なマーケティング予算を使うことがなくなった」と絶賛する。meimaiiのプラットフォーム上で、提携する約600人のKOLがさまざまな商材のグループ販売を行い、1日で1千万台湾ドル(約4千万円)の売り上げを達成したこともあるという。

 小雨さんは、KOLとして日本のカニやウニといった海産物や国内外の果物を扱い、品質を保証できるおいしい食品を販売する。約500人のグループメンバーに対し毎週商材を提案する。彼女の販売力に台湾国内の商社も一目置いており、輸入品の一部を小雨さんのグループのために確保するほどだ。

 小雨さんのシェア買いで日本の海産物を購入している男性は「毎週LINEで商材の紹介を受けとる。購入頻度は多くないが、以前シェア買いした食材に満足しているので、今後もグループに参加し続ける」と話す。

シェア買いで商品をまとめ買いする顧客も(小雨さん提供)

 小雨さんは自ら日本の生産者と交渉し、直接個人輸入することもある。こうしたグループ購入やシェア買いといった手法のビジネスは、台湾の消費者の「口コミ」に対する信用が依然高い中で、オンラインとオフラインのはざまにおける新しいビジネス形態として定着し始めている。

 「つい先日も、1600円相当の日本製高級すし酢が4時間で完売した」と小雨さん。自分の目利きを武器に小規模ながら購買層がはっきりとしたグループを運営しているKOLたちが、ポストコロナ時代に富裕層を味方に付け、台湾経済をリードする力になっている。

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