旧商工ファンド、管財人も知らなかった資金の流れ 破綻直前、元社長の法人がタックスヘイブンに

 

SFCGの債権者集会の会場に入る債権者ら=2009年、東京都千代田区

 かつて高金利と強引な取り立てが社会問題化し、5400億円の負債を抱えて2009年2月に破綻した商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)。創業者の大島健伸氏は、親族会社などに400億円を流出させたとして資産隠しの容疑に問われたものの、無罪になった。結局、資金の流れの大半は解明できないままだ。

 突然の破綻から十年以上を経た今年10月、共同通信が参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した「パンドラ文書」は、大島氏が破綻直前にタックスヘイブン(租税回避地)の法人を介し、巨額融資契約を結んでいたことを明らかにした。破産管財人も把握していなかった秘密法人による取引は、何を示すのか―。(共同通信=久保田智洋)

 ▽「私が実質的な所有者」

 パンドラ文書の記録から判明したのは、大島氏がSFCGの破綻直前を含め、複数の法人を相次いで租税回避地に設立した軌跡だ。カリブ海のバハマやパナマなどで大島氏を実質的所有者とする、少なくとも7法人が確認できた。

 

 うち09年1月にパナマに設立された「カルウッド・オーバーシーズ」は、翌2月には英領バージン諸島の法人「ウォーターフォード・ヨーロッパ」から6億円の融資を受ける契約を結んでいた。

 

旧商工ファンド、SFCG本社が入っていたビル=2000年、東京都中央区

 カルウッド社設立に関与した法律事務所の資料には、「私が実質的な所有者」と認める大島氏の署名付き文書が含まれていた。さらに、別の資料にはウォーターフォード社の実質的所有者として大島氏の親族が記載されている。

 7法人中6法人は、破産管財人の調査では把握されていなかった。

 また、SFCG破綻の過程を描いた著書があるジャーナリストの高橋篤史氏によると、大島氏が03年に東京国税局から申告漏れを指摘され、追徴課税されたのを不服として取り消しを求めた裁判で、国税当局側が「資金隠しに利用した」と指摘した2法人がパンドラ文書に記載されている。うち1法人は先に挙げた7法人の一つだ。

 ▽回収を困難にするタックスヘイブン

 パンドラ文書には、刑事事件への関与を問われた人物や事業破綻に直面した経営者らが、訴追や取り立てによる回収を避けるため租税回避地に法人などを設立し、資産を移転させた記録が多く含まれている。

 回避地の特徴は、税率が低いだけでなく、法人や信託の真の所有者が分かりにくいこと。裁判所の令状がなければ情報開示が困難な場合もあり、受益者を明かさぬまま資産を隠せる。

 日本で破産事件を扱う弁護士は「タックスヘイブンにある法人の財産を回収した事例は、聞いたことがない」と話す。破産者の申告がなければ資産の所在は分からない上、租税回避地に設立した複数の法人間で融資や販売契約を交わして担保を設定するなど、あらかじめ回収を困難にしているケースもある。

 大島氏も匿名性の高さに利用価値を見いだしたのかもしれない。元SFCG社員は「大島氏は海外での資産管理について、自分で勉強し、よく理解していた」と明かす。

SFCGの破産手続き開始を発表する破産管財人の弁護士ら=2009年、東京都中央区

 ▽自宅も別荘も差し押さえされず

 SFCGは、中小企業向けの融資でバブル崩壊後に急成長した。ところが、利息制限法の上限を超える「グレーゾーン金利」が裁判で無効と認定されたため、利息返還請求に備える引当金処理が経営を圧迫し、破綻。大島氏も債権者からの申し立てで破産した。

 破産手続きが決着したのは19年。破綻から約10年を要した。これほど長期間に及んだのは、大島氏の資産に関する調査や、回収を巡る協議に時間がかかったからだ。

 管財人が損害賠償請求訴訟を起こし、裁判所は大島氏の約717億円の資産隠しを09年に認定した。一方で、10年6月に警視庁が民事再生法違反(詐欺再生)などの疑いで大島氏らを逮捕したが、裁判で無罪となった。

 破産手続きの関係者は「大島氏は親族の担保を日常的に設定しており、誰も資産に手出しできない仕組みが構築されていた」と振り返る。象徴的なのは東京都の高級住宅街にある自宅で、大島氏の親族企業が絡む権利が複雑に設定され、債権者は差し押さえることができなかった。海外の別荘も手付かずで残された。

 ▽ラオスでは新事業

 大島氏の周辺では既に新たな事業が始まっている。19年10月、東南アジアのラオス証券取引所に上場した金融関連会社「LALCO」(ラルコ)。15年の会社設立から4年半余りで上場を果たし、自動車やオートバイを担保にしたリース事業を展開している。個人への貸し付けも始めたようだ。

 

金融関連会社「LALCO」(ラルコ)のサイト

 本社は首都ビエンチャンにあり、売り上げは年20億~30億円程度。日本語の採用サイトには、従業員数は約600人で「入社3カ月で月給2倍も可能」と説明していた。

 取引所の公開資料には取締役として大島氏の娘の名前が記載されているほか、役員には大島氏の息子が経営する会社の幹部の名前もあった。また、日本の採用窓口は息子が東京で経営する会社だった。

 大島氏本人の名前はないが、SFCGの元幹部は取材に「ラルコを実質的に経営しているのは大島健伸氏」と話す。

 大島氏は、日本での破産手続きの最中も裁判所に申請してラオスに出張していたことが確認されている。債権者との資産回収を巡る協議が難航している間にラオスで新規事業を始めていた可能性がある。ただ、ラルコの事業資金源は不明だ。

 ▽「もし財産隠しなら、債権者に配当を」

 租税回避地を通じた資金移動と、ラオスでの新事業の資金源。いずれも断片的な情報であり、資産隠しがあったのかどうかは分からない。ICIJに参加する共同通信と朝日新聞は、大島氏や息子に複数回にわたって取材を申し込んだが、●時点で回答はなかった。

 SFCGに融資を受けた人の相談に応じてきた及川智志弁護士は「当時から海外に資産を移しているのではないかと言われていたが、管財人も十分に調査できなかった。仮に財産を隠していたのなら債権者に配当すべきだ」とした上で「今からでも、本当のことを話してほしい」と訴えた。パンドラ文書の事実を元に再調査を申し立てることも検討している。

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