<社説>子どもに10万円 自治体の選択で給付を

 岸田文雄首相は13日の衆院予算委員会で、18歳以下の子どもへの計10万円相当の給付方法について、5万円分をクーポンで配布する方針を転換することを表明した。 自治体の判断で地域の実情に応じて10万円の現金給付を選択肢の一つに加える。自治体の判断に任せるのは合理的な選択だ。制度設計が不十分なまま実行するのは無理があった。今回は単発の給付だが、本来なら教育無償化を含む教育費の増額を実現すべきだ。

 財務省は現金とクーポンで10万円を給付するのにかかる事務経費は1200億円となり、現金で一括給付するより900億円高くなると説明していた。1回限りの給付に莫(ばく)大(だい)な費用をかけるのは、国民の理解を得られないだろう。

 住民が現金給付を希望しているとして、クーポン分の現金給付を望む声が相次いでいる。このうち、石垣市の中山義隆市長は、現金で給付すると発表した。

 「離島ゆえに高校卒業後、ほとんどの子どもが島外へ出る地域実情があり、転居費用など他地域より子どもにお金がかかる」という理由からだ。離島の教育環境を考慮すれば理解できる。離島の場合、商業施設が少なく、使える場所も限定される。

 南城市の瑞慶覧長敏市長と豊見城市の山川仁市長、八重瀬町の新垣安弘町長も全額現金が望ましいとの考えを示している。全国の自治体からは、クーポン支給は印刷などの事務負担がかかるという声が出ていた。事務作業を担う自治体の判断に委ねるのは当然だろう。

 一方、経済協力開発機構(OECD)によると、2018年の国内総生産(GDP)に占める、小学校から大学に相当する教育機関への公的支出の割合は、日本が前年より0.1ポイント減の2.8%で、比較可能な37カ国のうちアイルランドとともに最低だった。最高だったノルウェー(6.4%)の半分以下だ。加盟国平均は4.1%。

 少なくとも加盟国の平均の水準に達するよう、教育予算を増額すべきだ。問題は財源である。財務省は今年5月、国債と借入金、政府短期証券を合計した国の借金が20年度末時点で1216兆4634億円になったと発表した。国民1人当たり1千万円近い借金を背負っていることになる。

 厳しい財政状況にもかかわらず、22年度から5年間の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)は、現行より約100億円増の1年当たり2100億円超にする。防衛省は22年度予算の概算要求を過去最大規模の5兆4797億円としている。県民の多くが反対する辺野古新基地建設にかかる費用は、県の試算で2兆5500億円。

 膨らみ続ける防衛費を教育費に回し誰もが高等教育を受けられるよう教育無償化を進めるべきだ。子どもは教育を受ける権利があり、教育環境を整えるのは国の義務だ。

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