スタジオライフ公演『若草物語』を日本に置き換えた意欲作 『ぷろぐれす』ありふれた家族の景色、絆。

男優劇団・スタジオライフが名作『若草物語』を昭和初期の日本に置き換えた新作『ぷろぐれす』が開幕した。

『若草物語』は、1868年の出版から現在まで150年もの間、世界中で高い人気を誇る不朽の名作。
「結婚こそ女性の幸せ」だとされていた南北戦争時代のアメリカで、性格の異なる4姉妹がそれ ぞれの生き方を見つけるまでの姿をみずみずしく描き、ベストセラーに。 劇団スタジオライフ、本年最後は、4部作から成る原作より『続・若草物語』を軸に、背景を昭和初期(1930年ごろ)の東京に移し、倉田淳が新作として書き下ろし上演。晦日チームで観劇。
場所は溝口家、どこにでもありそうな家、そこには母・晴子(宇佐見輝)と娘4人、長女・真理子(関戸博一)、次女・芙美子(松本慎也)、三女・日向子(曽世海司)、末っ子・珠子(石飛幸治)。出だしは珠子のモノローグから始まる。コート、スカーフといういでたち。客席に向かって自分の家族のことを語り始める。「ありきたりの家族です」「女ばかりの家族」という。そこから時間が遡る。コートを脱いでスカーフを取るとおさげ髪の少女になる、という趣向。割烹着姿の母親が菜箸を持っている。日向子は女学校を卒業したばかり、家の手伝いをしている。次女の芙美子はボブヘアー、22歳、活発な印象、出版社に勤めたかったが、面接で落ちて、今は叔母の仕事の手伝いと本屋の店番、週三回詩を投稿、長女の真理子は三越デパートにお勤め、とは言っても今のようなキャリア重ねて、という感じのものではなく、結婚したら退職して家庭に入る、というニュアンス。

何か特別な事件が起きるわけではない。よくあることの積み重ね、叔母の小津安子(伊藤清之)がやってくる。「このあいだの返事は?」と真理子に問いかける。真理子はYESともNOとも言わない。その様子を母、そして他の姉妹達がさりげなく見ている。この時代は恋愛結婚よりも見合いが主流、家柄などが重視される。またとない縁談とばかりに叔母は何気に強く勧める。叔母が帰った後、芙美子は「運命で出会いたい」という、見合いには否定的な考え。ちょっとした挙動や視線でそれぞれの姉妹のキャラクターが見えてくる。真面目で妹思い、おっとりした印象の長女、ちょっと言いたい放題で闊達な次女、口数は少ないが心優しい物静かな三女、少々甘えん坊な四女。そんな折にこの家にちょくちょくやってくる久我道彦(緒方和也)、祖父は貿易会社の会長、家柄も容姿も洗練されている。はっきりと態度には表さないが、姉妹たちは何気に彼が気になる様子。奥ゆかしく慎ましやかに”興味”を示しているところが時代の空気を感じる。現代の感覚とはかなり違う。そして真理子は叔母から見合いの返事を催促される。姉妹たちの関係性、末っ子の珠子は二番目の姉の大事な本を燃やしてしまい、大げんかしたり。また久我道彦は「サンフランシスコへ行く」と挨拶に来たり、バンドマンの森貞夫(吉成奨人)がダンスホールが閉まるから、これが最後の演奏になるかもしれない、と言いに来たり。この家で起こる出来事と言ったら、そのくらい。

心がざわざわしたりするも、暖かい絆で結ばれている家族。夕飯のシーンはでてこないが、豆腐屋のラッパの音が聞こえてきて、三女の日向子がお鍋を持って外へ行く。「今夜は湯豆腐ね」、湯豆腐を囲むシーンがなくても、湯豆腐という言葉だけでその場が温かくなる。お風呂を沸かす話をしたり、料理をしているシーンはないが、日向子が小さい小皿を母に渡す。「腕を上げたわね」と褒める。そんな当たり前の日々がただ淡々と綴られる。だが、時代は昭和初期、次第に戦争の足音が近づいてくる。現在放映中の連続テレビ小説も出だしは昭和の同じぐらいの時代だった、この物語もなんということもない日常が描かれていたが、この当たり前の日々に次第に暗雲が…。この登場人物たちのその後は?なんとなく察しもつくかもしれないが、それでも”ぷろぐれす”、progress、意味は「前進する」「成長」「なりゆき」「経過」などの意味がある。また、キャスティングの妙とでも言うのだろうか、実は長女より末っ子の方が実年齢が上の俳優が演じている。これが意外と効果的で、キャラクターの輪郭がはっきり見えてくる。「若草物語」「続・若草物語」を原作としており、キャラクターの性格などを借りてきているが、ほぼ”創作”に近い。ただ、次女と四女の衝突は(原因は違うが)、原作でもこの二人は少々そりが合わない。舞台では次女役の松本慎也が末っ子役の石飛幸治を投げ飛ばしたり(笑)。こう言った笑いを挟み込んで物語は進行する。公演は12月19日まで、キャスト違いの公演もあるので、そちらも時間があれば、見比べるとまた違った景色が見えるかもしれない。

<概要>
日程・会場:2021年12月11日〜12月19日 ウエストエンドスタジオ
原作:オルコット「若草物語」「続・若草物語」より
脚本・演出:倉田淳
[キャスト]
石飛幸治 曽世海司 関戸博一 松本慎也 緒方和也 宇佐見輝 吉成奨人 伊藤清之
企画・製作 スタジオライフ
公式HP:http://www.studio-life.com
Twitter 劇団公式: @_studiolife_
Twitter Studio Life THE STAGE: @GE_studiolife
Facebook: https://www.facebook.com/studiolife1985/

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