複線の気動車旅は空が広かった

 【汐留鉄道俱楽部】ここ数年、茨城県内の鉄道に好んで乗っている。それは、①コロナ禍で遠距離旅行が困難②東京都内の鉄道は日常的に乗っている③何と言っても茨城は近いし、旅の軸となる常磐特急に親近感がある―と言うのが理由。そこで深秋の茨城小旅に出た。

 今回は下館から取手までの関東鉄道常総線(51・1キロ)。非電化の私鉄ローカル線にしては長距離だ。特徴は途中の水海道―取手間が複線となっていること。非電化ローカル線は単線というのが定番だが、この区間は立派な複線となっているのだ。その上、この区間は通勤時間帯だと6分間隔で運行、さらに「快速」まである。興味をそそられる地方私鉄である。

 ということでJR水戸線の下館駅から常総線に乗り換える。第3セクターの真岡鉄道も発着する〝3路線ターミナル〟。真岡鉄道で益子方面へ…も素敵だがここは当初目的通り既に入線していた途中の水海道行き常総線上り気動車に乗った。1両編成で、車内はごく普通のロングシートのワンマン車だが、側面には地元をPRする今っぽいキャラクターが描かれている。

下館で発車を待つ「水海道乗り換え取手行き」

 車内アナウンスがしゃれていて「水海道乗り換え取手行きです」。水海道行き、ではなくあくまで取手行き。「接続を保証し、終点取手まで必ず行けますよ」と強調しているかのよう。ユニークで自信ある案内だ。

 しばらくのどかな田園風景を走る。鬼怒川沿いに関東平野の真っ平らな土地を南に向け揺られる。地元の客がゆったり座っている。途中で自転車を持った高校生らしき若者が乗ってきた。サイクルトレインの役割も果たしている。

 車窓左手には茨城の象徴・筑波山がずっと追いかける。山の周りをぐるり走っているかのよう。決して遅くはない速度ながら愚直に各駅に止まる。ほとんどの駅のホームが長いのが気になる。1両編成ではもったいない。途中「下妻」「三妻」「中妻」と〝妻〟の駅が続く。

 いつの間にか筑波山とも別れ、やがて沿線の中核となる終点水海道駅に着く。案内通り取手行きが待っており、まさに絶妙な接続だが、こちらも1両編成だった。乗ってきた車両はすぐに回送で出て行ったが、すぐ取手行きに乗ることができるのだから、事実上直通と同じ感覚といえるだろう。

 水海道からは果たして複線となった。ここから取手までの17・5キロ。風景ものどかさよりすこしずつ街中を走る感じに変わる。架線や支柱のない複線の気動車区間はめったにお目にかかれない見応えある景色だ。何と言っても先頭車からの空がやたら広い。沿線の宅地開発などで乗車人員が多くなり複線化したのだろうが、速度も速く前方景色だけみていると都内の私鉄に乗っているみたいな気になる。すれ違い列車もあった。それが1両編成同士!

 やがて守谷駅に着く。島式2面4線の立派な駅だ。ここは2005年開業の「つくばエクスプレス」(TX)の乗換駅で乗降客も多い。駅進入時、運転席の後ろで見ているととても郊外の私鉄気動車とは思えず、都内の大手私鉄と変わらない感覚に襲われる。終点の取手までいくはずだったが、TXもずっと乗っていなかったのでここで常総線と別れて下車した。

 

大手私鉄駅と見間違う立派な守谷駅へ。架線がないのが不思議なくらい

 TXは2005年の開業時に乗った。15年後、荒野と見まがう当時のほこりっぽい沿線はそこかしこにマンション群が立ちはだかる様変わりを見せていた。「住みたい街」の一つとされる「流山おおたかの森」駅周辺を散策したかったが、ずっと運転席後ろで立っていて疲れたので断念。時速130キロ走行を堪能して江戸川を渡った。

 新旧の列車に乗ってあらためて茨城の私鉄や3セク鉄道に魅了された。次は鹿島灘沿いの列車あたりに乗ろうか。茨城は鉄道魅力度ランキング上位だね。

☆共同通信・植村昌則

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