なぜこんな冷酷なことができるのか? ウィシュマさんの死と入管 指宿昭一弁護士語る

「なぜこんな冷酷なことができるのか?」。ニュースを知ったとき、多くの人はそう思ったのではないか。名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが今年3月、施設内で餓死した事件である。それをテーマに掲げた集会「なぜこんな冷酷なことができるのか? 外国人の人権からみた日本」が東京で開かれ、指宿昭一弁護士が講演。「救急車を呼べば命は助かったかもしれないのに。これは未必の故意の殺人のようなもの」と指摘した。講演での語りを通して見えてきたものとは?

◆検査で餓死寸前が判明 「救急車を呼べばよかっただけなのに」

ウィシュマさんは2017年6月、留学生として入国して日本語学校に入学した。1年後に日本語学校から除籍され、19年1月には在留資格を失った。同居していたスリランカ人男性からDV被害を受け、20年8月に警察に行ったが、DV被害者として保護されず不法在留で逮捕された。その翌日、名古屋入管に収容された。

収容時の体重は84,9キロだったそうです。強いストレスを感じて体重はどんどん落ちていきました。食べるものが食べられない、飲むものが飲めない。一種の拘禁反応みたいなものだと思います。今年1月20日の時点で体重は72キロになった。約13キロも落ちていた。

支援者は、点滴をして栄養補給をしてくれと何度も何度も(入管に)求めたんですけど、1回も行われなかった。2月15日に尿検査が行われて、ケトン体という物質が3+という数値が出ました。3+は非常に危険な数値。体が飢餓状態に陥っているということです。「普通の医師や看護師であれば、すぐに病院搬送して点滴を受けさせます」という意見を私は複数のお医者さんから聞いています。

講演する指宿昭一弁護士。集会は「国連・人権勧告の実現を!実行委員会」が主催し、2021年12月10日、参議院議員会館講堂で開かれた(撮影:本間誠也)

3月4日に病院での受診が実現したのですが、ここでも点滴はされないし、担当はなぜか精神科の医師です。しかも入管は「この人(ウシュマさん)は詐病の疑いがある』と伝えてるんですね。そんな余計な情報を与えておきながら、ケトン体3+のことは何も伝えていない。翌5日にはウシュマさんは脱力状態になって朝からほとんど反応がない。血圧や脈を測ろうとしても数値が出ない。誰が見てもおかしい状態なのに救急車を呼ばないんですよ。せめて5日朝の段階で病院に連れて行けば命が助かったかもしれないのに。

亡くなった3月6日は朝から反応がほとんどなく、午後にやっと救急車を呼びました。病院に着いた時には亡くなっていた。病院の事務局長が言っていました。「病院に来て亡くなったんではなく、着いた時には死亡していた。病院はそれを確認しただけです」と。これが事実経過です。亡くなった時の体重は63.4キロ。収容時から21.5キロの減でした。

◆「これは未必の故意による殺人。しかも同じことを繰り返してきた」

ウィシュマさんの餓死について入管庁は今年8月、最終報告書を公表した。当時の上川陽子法務大臣は会見で「送還することに過度にとらわれるあまり、収容施設として人ひとりをお預かりしているという意識が少しおろそかになっていたのではないか」とコメントしている。

それに対し、指宿弁護士は講演で次のように語った。

上川前大臣のコメント、どう思います?「少し」は余計ですよね。法務省のホームページでは「少し」はカットされています。私はニュースで見ました。言ってました。間違いなく。語尾も良くないですよね。「おろそかになっていたのではないか」。違います。おろそかになっていたんです。強制送還するためには人の命なんかどうでもいいということをやっている。

私たちはこれを殺人と考え、遺族と相談して殺人罪で名古屋入管の局長らを刑事告訴しています。死ぬかもしれない、死んでも構わないと思っていなければこんなことはできない。救急車を呼んで、点滴を打てば助かった可能性は高いのにそれをしなかった。これはまさに未必の故意の殺人です。

こんなことが入管では日常茶飯事で行われています。2007年から現在まで、17人の方が同じような状況で亡くなり、そのうち自殺した人は5人です。ウシュマさんと同じように餓死した方もいます。2019年6月に長崎の大村入管で亡くなったナイジェリア人の男性も餓死でした。同じことが繰り返されているんです。

上川陽子・前法務大臣(公式HPから)

指宿弁護士の話を続ける。

ウシュマさんの事件については様々な問題点があります。尿検査で体が飢餓状態に陥っているという数値が明確に出ているのに何もしなかった。これは大問題です。最終報告書でこれについて何と言っているか。「入管の医療体制が不備だったからやむを得ない」。こう言ってるんですよ。そして結論は、入管の医療体制を改善していきましょう、です。

それはこの事件の本質ではありません。救急車を呼べば助かったんですよ。助ける気もないし、助けないでもいいという入管の体質、体制。こうしたもので事件は起きたんです。最終報告書の改革方針は全くの欺瞞です。

◆ビデオがメディアに流れたら大変なことになる

指宿弁護足はウィシュマさんの状態を撮影したビデオについても言及した。亡くなる2週間前から撮影されていたものが残っている。

ウシュマさんの一人部屋の天井から撮ってるビデオが存在します。遺族は亡くなる2週間前からの映像を全部くださいと言っています。でも、実現していません。ほんの一部分を入管が編集して、1時間10分にして遺族が見ました。裁判所の証拠保全という手続きを通して私も少しだけ見ました。どんどん衰弱して、誰が見ても入院させなければだめだと分かります。

それが分かるから公開しないんです。メディアで流れたら大変なことになる。ショッキングだったのは亡くなる2日前と当日の映像です。もう本当に死にゆく人の状況でした。少し叫び声をあげたりしてるんですね。その後、泣き声になるんです。映像や音声というのは力がありますよね。こういうものを隠し通そうとする入管の姿勢は大問題だと思います。

ある人の証言によると、ウシュマさんが亡くなった直後、女性の入管職員が階段の踊り場で肩を抱き合って泣いていたそうです。入管の職員に人間の心がないと私は思いたくありません。ウシュマさんと主に接触していたのは基本的に女性職員ですけど、心を痛めていると思います。それでも、わたしはあえて言いたい。なぜ、あなたたちは救急車を呼ばなかったのか。おそらく厳しい規則があるんだと思います。勝手に呼んではいけないと上司から止められてたんだ、と。でも、それに逆らってでもなんで呼ばなかったのか。人の命を救えたら処分されたっていいじゃないですか。処分するような入管と闘う気はないんですか、と。

名古屋出入国在留管理局のTwitterアカウント。過去にさかのぼっても、ウイシュマさん関連のツイートは見当たらない

入管施設でなぜ、こんな冷酷で残酷なことが繰り返し起きるのかー。指宿弁護士は「入管という組織には歴史的にぬぐいがたい問題点がある」と述べ、「戦前の特別高等警察(特高)の流れを汲んで、外国人などによる治安悪化を取り締まる組織として入国管理庁が存在する」と言う。そして「外国人を敵視し、危険な存在だとして管理・抑圧しようとする入管の体制を変えることができるのは市民の力以外にない」と訴えた。

◆入管の問題点 「全件・無期限」収容、第三者のチェックもなし

入管収容の問題点として、指宿弁護士は3点を挙げる。

①逃亡の恐れがない外国人もすべて収容しようとする「全件収容主義」
②期間が定められていない「無期限収容」
③仮放免の可否は入管の裁量で決まり、収容をめぐって裁判所など第三者のチェックが効かない

この講演で指宿弁護士は、米国務省から「人身売買の制度」と批判された技能実習制度にも言及した。この制度には構造的に2つの大きな欠陥があったうえ、「そもそも制度の目的自体にウソがある」と言い切った。

技能実習制度の目的は「技術移転を通じた国際貢献」なんですって。日本中の人に聞いてみたい。これを信じてる人はいますか、って。労働力確保のための受け入れであり、来る人たちは出稼ぎが目的です。おかしな建前のもとで実習生たちは人権などを保護されていない。大きな問題は、同じ職場で3年間働かねばならないこと。問題があっても職場の移動の自由がない。さらに大きな問題は「労働力マッチングの過程で中間搾取と人権侵害」がなされていること。労働力マッチングとは、求人と求職のことです。国を越えるからハローワークが使えず、ブローカーが入ってくるんです。

例えばベトナムでは「送り出し機関」がいて、日本には「監理団体」がいます。この2つのブローカーが多大なお金を取ってマッチングをやるわけです。ベトナム人から平均年収の4倍の100万円を取るんですよ。持ってないから借金して来ます。返すために日本で必死に働く。職場の異動の自由がないから、セクハラがあってもパワハラがあっても、賃金が安くても法令違反があっても黙って働くしかない。これが奴隷でなくて何が奴隷ですか? 現代の奴隷なんです。送り出し機関はほかにも悪さをやっているし、監理団体もキックバックを受けたり、各受け入れ企業から実習生一人当たり月に3~5万円くらいの管理費を取っていたり。この制度は廃止すべきです。

ですが、こういうものを存続させようとする勢力が日本に根強くあるんです。自民党も問題意識を持ちながらも基本的には制度の維持です。技能実習を3年間やった後に「特定技能」という新たな制度を国は作りました。技能実習よりはマシですが、これもブローカーが食い込んで搾取できるような制度にいま、変えられようとしています。

外国人のパスポートに貼られる、日本への入国シール(出入国在留管理庁紹介映像から)

◆使い勝手よく使って、要らなくなったら強制帰国させるのか?

2020年10月末現在、国内の外国人労働者数は172万4328人。16年に初めて100万人を突破して以来、毎年20万人ずつ増え、コロナ禍がなければ200万人を超えていた可能性は高い。

こうした外国人労働者の受け入れ制度が存続してしまうのは、外国人の人権なんかまるで考えない、外国人は管理と抑圧の対象で危険な人たちだという見方が背景にあるからです。そうした考えなら受け入れなければいいのに……。日本経済のことを考えればそうもいかない。

働きに来る人たちは、私たちと同じ生身の人間です。使い勝手よく使って、要らなくなったら強制的に帰国させればいい―。そんな受け入れだったら絶対にやるべきではありません。外国人労働者に頼らず、少子高齢化で経済的にどんどん衰えていくほうがよっぽどまともだ。私はそう思っています。

(取材・構成:フロントラインプレス 本間誠也)

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