第2の中国を目指すベトナム、半導体で台頭の台湾…2022年の日本とアジア諸国の情勢を考える

2021年11月22~25日、ベトナムのファン・ミン・チン首相が訪日し、24日には日本の岸田首相との首脳会談を行いました。今回の訪日をきっかけに、今後は様々な分野で協力関係が強化されることとなりそうです。

また、2022年1月からは、15カ国によるRCEP(地域別の経済的包括連携)の発効が予定されています。今後の世界経済や交易関係などに影響が出てくる可能性があります。このたびのベトナム首相の訪日を受けた今後の日越関係、RCEPの意義とアジア新興国への影響などについて、考えてみます。

<写真:AFP/アフロ>


ベトナム首相の訪日と今後の日越関係

2020年10月、当時の日本の首相であった菅首相は、就任後初の外遊先としてベトナムを訪問し、当時のフック首相やチョン書記長などとの会談を行いました。その約1年後である2021年11月に、今度はベトナムのチン首相が、訪日して、岸田首相などと首脳会談を行いました。岸田内閣が発足してから初めて訪問した外国首脳で、この2つのケースだけからみても、日本とベトナム双方は互いに相手国を重要視しているとみてよいでしょう。

具体的には、交通インフラ、気候変動対応インフラ、ヘルスケア、DXなどの分野において、投資や企業連携を強化する、という方針が確認されました。加えて、国防、安全保障における両国の連携、協力方針も示されています。経済、外交の両面で相互連携を深めていく、という意識が感じられます。

なかでも、日本、ベトナムの連携によって相乗効果が期待されるのが、気候変動対応インフラの分野です。おりしも、2021年10月31日~11月12日の日程で、国際気候変動枠組み条約第26回締約会議(COP26会議)が開かれました。このたびの会議で、参加国のあいだで何か目新しいことが決まったわけではありませんが、環境、気候変動に対して各国が感じている危機意識をあらためて確認できた、という点ではひとつのきっかけになったといえます。

会議の中で、ベトナムのチン首相は、「2050年までにカーボンニュートラルにする」という国家長期目標を発表しました。成長途上で電力需要が旺盛なベトナムにおいて、自国の技術だけでカーボンニュートラルを実現するのは至難の業であるため、今後、目標達成のために日本企業と連携していくケースが増えてきそうです。

なお、他国からの投資などによって、産業を育成し、徐々に自国の産業を育てていく、という流れで発展してきた代表的な国が中国です。他国の力を借りながら自国の産業を育成、最終的には自国ブランドの産業や企業を育成する、という流れをたどってきました。その中国と、国の経済規模やスピード感は全く異なりますが、ベトナムは中国と歩んでいる方向性がほぼ同じといえます。

近年のケースでは、ビングループ傘下のビンファスト(未上場)などに対して、ベトナム政府はベトナム初の国産車メーカーとして育てるべく、国を挙げて支援しています。それ以外には、現時点で自国発の産業、企業はほぼ育っていないというのが実状ですが、ベトナムが弱い環境などいくつかの分野において、新たな産業、企業が出てくる可能性があるとみています。

ベトナム経済、個別企業がどのように成長、発展してくるか、今後の動向が注目されます。

RCEPの意義と存在感増す台湾

いよいよ2022年1月に、RCEP(地域別の経済的包括連携)協定が発効します。これは、日本、中国、ASEANなど15の国が参加する経済連携協定で、予定通り15カ国すべてが発効すれば、世界のGDPのうちおよそ3割を占める巨大貿易圏が生まれることとなります。

ここ数年の米中貿易戦争や新型コロナウイルス問題の世界的拡がりによって、世界的には交易の分断が目立ちますが、そのような状況の中では異色の動きといえます。発効国のなかでは、競合する産業が多く、かつ、人件費などの面でコスト競争力のあるベトナムが恩恵を受けやすいと思われます。

おりしも、2021年12月には、パナソニックが中国の家電大手TCL社への生産委託での合意を発表しました。対象は低価格機種のテレビですが、直近の日本の電機産業縮小、中国企業の隆盛を如実に示しているケースといえます。このたびのRCEPには、勢いのある中国、アグレッシブな韓国が含まれており、今後、同様の投資が増えてきそうです。

また、このRCEPの参加国のなかに含まれてはいませんが、注目されるのが台湾の動きです。台湾のみならず世界を代表する半導体ファウンドリーメーカーである台湾積体電路製造TSMCは、2020年5月に米国・アリゾナ州、2021年10月に日本の熊本に工場を建設すると発表しました。さらに欧州からも誘致を打診されているもようで、世界半導体関連メーカーからの注目度の高さがうかがえます。

日本はTSMCの工場を誘致できたとはいえ、楽観視はできません。TSMCによる米国と日本の2つの投資案件は、種類、意味が大きく異なります。米国の作る製品が、5㎚と微細化の進んでいる最先端クラスの製品である一方で、日本の方は22~28㎚の汎用半導体製品です。

米国にとっては、最先端級の技術を手に入れて自国の半導体産業を強化する、という点でメリットが大きい一方で、日本に誘致するのは多くの電子機器に使われる汎用品であるため、日本を含む多国、企業にとってメリットのある話です。結局、日本の熊本工場はTSMCの利益拡大のために建設されるもので、日本にとってメリットの大きい投資案件とはいいにくいでしょう。

意義や期待される効果は異なりますが、半導体や電子部品関連の世界的な旺盛な需要が続いているなかで、もともと電子産業に強みを持っている台湾の今後の動向も要注意だといえます。

<文:市場情報部 明松真一郎>

© 株式会社マネーフォワード