米国のヘイトクライムと報道(上)11人の命奪った銃乱射

犠牲者追悼のために植樹された木々とジム・ビシスさん=2021年10月27日、米ピッツバーグ

 「11人の木なんだ」─。米東部ペンシルベニア州ピッツバーグの公園を訪ねると、まだ若い木々が風に揺られて並んでいた。リスが駆け回っている。

 「彼らの思い出が永遠に祝福されるように」。傍らに置かれたベンチには11人の名とともに、こう言葉が刻まれ、2018年10月27日とあった。

 「11人の犠牲者をいつでも思い出すことができるよう、みんなが集まるこの場所に木を植えたんだ」。地元でユダヤ系の新聞を発行するCEO(最高経営責任者)のジム・ビシスさん(65)と、事件から3回目となるシナゴーグ(ユダヤ教会堂)銃撃事件の追悼式を訪ねた。

 ピッツバーグの中心街から車で約20分、ユダヤ教徒が多く暮らす「リスの丘」と呼ばれる地区がある。3年前のその日、白人至上主義に傾倒した男が土曜の安息日に礼拝中のシナゴーグに侵入。「ユダヤ人はみんな死ね」と叫びながら建物内で銃を20分間乱射し、11人の命が奪われた。

◆偏見や憎悪、日本でも

 人種や民族、宗教、性的指向などに偏見や嫌悪を持ち、暴力をふるうヘイトクライム(憎悪犯罪)。米国の分断を象徴するものとして捉えがちだが、国内でも繰り返されている。

 川崎の在日コリアンに対するヘイトスピーチ、相模原の障害者施設を狙った殺傷事件。問題から目をそらさず「共生社会」を実現するために、日常に潜む偏見や憎悪を批判するジャーナリズムも在り方を問われている。

 ヘイトクライム報道には課題も多い。相模原殺傷事件では、「遺族からの強い要望」を受けた警察が被害者の実名を非公開とし、裁判でも1人を除き匿名とされ、甲Bなどと表記された。社会はヘイトクライムにどう向き合うべきか。それぞれの思いがある中で簡単には答えが出ない。

 実名報道が基本という米国では、こうした状況を人々はどう受け止めてきたのか。ヘイトクライムと向き合い続けてきたピッツバーグの人々を訪ねた。

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