低迷するチームの救世主となるか 新機軸打ち出す日本ハム・新庄剛志新監督

プロ野球日本ハムの秋季キャンプで選手らと笑顔を見せる新庄剛志監督=11月8日、沖縄県国頭村

 2021年の野球界はメジャーリーグの大谷翔平(エンゼルス)の、投打にわたる「二刀流」の活躍が話題を独占した。

 東京五輪での「侍ジャパン」の金メダルや、日本シリーズでのヤクルトの20年ぶりの日本一などもあったが、シーズンオフの主役には日本ハムの新庄剛志新監督の名前を挙げたい。

 実に16年ぶりの球界復帰。この間何をしていたかといえば、生活拠点をバリ島に置き、野球とは無縁の暮らしを送ってきた。

 ある時はタレント、またある時は画家に挑戦と、およそ指導者の道を模索してきたとは思えない。そんな49歳が、今や連日スポーツ紙の1面を飾り、テレビのスポーツニュースが一挙手一投足を報じる。話題性は抜群、新庄新監督はやはりスーパースターなのだ。

 現役時代の代名詞が「宇宙人」。奇想天外の言動が注目されてきた。11月4日に監督就任会見が行われると、いきなり「新庄節」が炸裂する。

 「選手兼監督で契約を結んでもらいました」とやって、同席する川村浩二球団社長から「いえいえ、監督だけです」と突っ込みが入る。

 自ら「監督」ではなく、「BIG BOSS」と命名。その後も「僕は優勝なんか一切目指しません」と持論を展開したかと思えば、「試合中にインスタライブとかさせてもらえれば最高かな」と新庄ワールド全開だった。

 地元札幌のファンにお目見えとなる11月30日のファンフェスタでは、高級外車に乗って登場。「暴れてもいいですか?」「感動させてもいいですか?」とマイクパフォーマンスも忘れない。

 ど派手な衣装をさらりと着こなし、日ハムファン以外も虜にしていく。見事なエンターテイナーぶりだ。

 ひょうたんから駒と言えば、いささか失礼にあたるかもしれないが、かなり唐突な監督指名だった。

 10年に及ぶ栗山英樹前監督の後任には当初、稲葉篤紀・侍ジャパン監督が有力視されていた。だが、稲葉氏の家庭的な事情もありGM就任で決定。そこで急浮上したのが新庄新監督の名前だった。

 チームは3年連続で5位に沈み、ファンの足も球場から遠のいている。2023年には北広島に完成する新球場に移転する。

 じり貧に歯止めをかけて、根本から組織の大改造を図りたい球団にとって、新たな指揮官はある意味で冒険の人事であり、切り札の投入でもあった。

 予想以上の滑り出しを見せる「新庄日本ハム」には「もう既に元は取った」と言う外野の声も聞こえる。

 連日マスコミに登場し関連グッズは売れ、シーズンシートへの反響も上々で新監督の推定年俸1億円も安いと言うわけだ。

 しかし、話題満載のここまでの動きを「新庄劇場」とすれば、チームの再建策であり強化策を含めた「新庄野球」は未知数と言えるだろう。

 来年2月のキャンプ本番からは、開幕を見据えた本番態勢に入る。それまでに新監督は何を用意してどんな改革を進めていくのだろうか。

 就任会見では、レギュラーの完全白紙や無安打でも得点を取れる野球など新庄流の一端を披露した。

 沖縄で行われた秋季キャンプでも強肩で低く、速い送球を求めたり、内外野をシャッフルして守備練習を行うなど、これまでの価値観にとらわれない柔軟な思考と、強固なディフェンス野球を目指す一端を垣間見ることができる。

 だが、一方で現実に目を向ければ、今年のチーム打率はリーグ5位で、クリーンアップさえ固定していない。

 投手陣も二桁勝利は上沢直之、伊藤大海だけの現状は厳しい。

 さらに今オフには主力級の西川遥輝、大田泰示を球団が来季の契約を提示しない「ノンテンダーFA」の名目で自由契約としている(大田は12月14日にDeNAが獲得を正式発表)。

 実力の衰えと若返り策が主たる目的と見られるが、二人合わせて3億7000万円とされる高額年俸削減の側面も否めない。

 その補充には野村佑希、清宮幸太郎、万波中正ら若手野手の成長と新外国人の獲得で補いたいが、優勝争いをするには戦力的に不安が残るのも確かである。

 新庄新監督の内面を良く知る人たちからは「野球に関しては、意外に緻密で真面目」という声を聞く。派手なパフォーマンスと言動は営業用で、本番は正攻法なディフェンス野球を展開するという見立てだ。

 12月11日に神宮球場では故野村克也氏を「偲ぶ会」が行われ、新庄新監督も「教え子」として参列した。

 気がつけばヤクルト・高津臣吾、阪神・矢野燿大、楽天・石井一久、西武・辻発彦と野村門下生の監督は5人を数える。

 何とも豪華な顔ぶれだ。そんな中で、ちょっぴり毛色の変わった新庄新監督は、どんな野村野球の遺伝子を発揮するのだろうか。

 人気先行の「新庄劇場」と実力も兼備した「新庄野球」が合致した時、新生日本ハムは台風の目以上の存在になる。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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