『はじまりの✳︎ボーイ ミーツ ガール』あなたの想い出の彼方にも存在したかもしれない不器用な恋模様

年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき または観なくてもいい?映画作品を紹介。
チェリストを目指す優等生の少女マリーと、彼女が抱える秘密と苦悩を知り彼女を支えることを決意する少年ヴィクトールの、淡く可愛らしい恋を描いたフランス映画。

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音楽の道に進みたい少女と、彼女に恋した少年

マリーは チェリストを目指す12歳。徐々に視力を失っていく難病に苦しみながら、それをひた隠しにしている。目が見えなくなったことを父親に知られたら、専門施設に入院させられる。そうすれば、音楽学校に進学してチェリストになる夢が絶たれてしまう。マリーとしては、どんな手を使ってでもそんな事態は避けたかったのだ。

自分の夢の実現に向けて努力するマリーだったが、そこは12歳の少女、うっかり恋もしてしまう。

その相手は、学業では落ちこぼれのヴィクトール。彼もまたマリーに恋していたが、幼い頃に自分と父を捨てて出ていった母親から受けたトラウマからか、女はウソをつくから恋なんてしないと思い込み、なかなか素直に振る舞えない、ちょっと拗らせた少年だった。

しかし、マリーの秘密を知ったヴィクトールは、なんとしても彼女の夢を叶えようと奮起する。

つらい現実に抗う幼い少女と少年の、淡い恋の行方はどうなるのか。ハリウッド大作に疲れた心を癒す?、可愛らしい小編。

ウソを受け入れない?嘘を受け入れる?

女はウソをつく、とヴィクトールは言う。男は、とか、女は、みたいな決めつけはジェンダーハラスメントだ!と叫び攻撃されそうな、切ない時代になりつつあるが、そんな中でとにかく彼はそう思い、だから女を信じない。

実際、マリーは彼に自分の目のことを打ち明けようとはせず、二人の仲が接近してからもなかなかその秘密を明かそうとはしなかった。むしろ、その秘密を隠す手段としてヴィクトールに近づいたのだと嘘をつくのである。

ヴィクトールはマリーのつらい気持ちを簡単には理解できないし、マリーが自分に対して抱く恋心を信じず、マリーの嘘を真実として受け止める。“女はウソをつく“からであり、落ちこぼれとして自分に自信を持てないからでもあった。

かのルパン3世は「男は騙されるために生きてんだ」と嘯き、自分を騙す女(峰不二子)を、だから愛するんだというわけだが、ヴィクトールがこの境地に達するにはまだまだ幼すぎる、というわけだ。

だが、それでもマリーへの恋慕の気持ちを断ちがたいヴィクトールは、彼女の秘密を守り通す手伝いをすることを決意するようになる。そしてマリーもまた、ヴィクトールにその本心を打ち明け恋は成就、2人はマリーの音楽院受験の実現に向けて努力し始めるのだった。

幼い2人の拙い恋を、そのまま受け止めて

正直、本作を一つの映画作品としてみれば、拙さというか、不可思議な演出やシーンが多々あって、それほど出来がいいとは言い切れない。論理が成立してない≒伏線だけ敷いて回収しない?ようにも思えるのである(総じてフランス映画はそういうものかもしれないが)。

だが、それはそれとして、2人の少年少女が恋して無茶な行動をする、その稚拙な恋愛は ひどくぎこちなくて、意味不明でいいのではないか?
落ちこぼれで貧乏な少年と、裕福だが病気を抱える薄幸の美少女の恋。よくある話だし、日本でも漫画や小説の題材としてよく使われそうな設定だが、味付けの仕方によって物語はどうにでもなる。作品の不器用さは横に置いて、ヴィクトールとマリーの淡く不器用な恋を、余計な大人の算段ぬきに見守ってあげればそれでいい、そんなふうに思えたのである。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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