未来の博士たちによる3分間の熱闘!

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211219

博士課程の学生が、自身の研究の魅力を3分で伝える「未来博士3分間コンペティション2021」が11月3日に開催された。

nicolas_/E+/Getty


博士課程の大学院生がスライド1枚と3分間という条件の中で、自身の研究のビジョンと魅力を伝え、その力を競う「3MT®(Three Minute Thesis)」。6大陸の400以上の機関で開催されているこの大会は、日本では広島大学を代表機関とする未来を拓く地方協奏プラットフォーム(HIRAKU)が2015年から実施している(go.nature.com/3MT_2020

)。

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昨年に続きオンラインでの開催となったが、全国から130人が応募。大会当日は、動画審査を勝ち抜いた日本語部門および英語部門のファイナリスト各11名がオンラインで発表を行った。

シュプリンガー・ネイチャー動画賞は、胎盤由来エクソソームで妊娠高血圧腎症の手掛かりを探る研究の魅力を伝えた山口大学のLita Rakhma Yustinasari氏 に、Nature ダイジェスト 動画賞は、1970年代に知識人が大量虐殺されたカンボジアで虫歯予防の普及・定着に取り組む広島大学の浅尾友里愛氏に決定した。

英語部門のファイナリストおよび審査員。

未来を拓く地方協奏プラットフォーム(HIRAKU)


英語部門の審査員を務めた弊社のアントワーン・ブーケは、「妊娠高血圧腎症に関する現在の知識、研究の仮説および研究計画を明確に説明していて、すぐさま目を奪われた」と評価。なお、Lita氏 はオーディエンス賞も受賞した。

一方、日本語部門にて審査を担当した小誌は、虫歯治療をしに行くだけでは虫歯が減らず、現地での予防の普及・定着が必要と気付いた研究チームが、その仕組みを作って実際に虫歯を激減させたことに感銘を受けた。この方法は、カンボジア以外の場所でも、多くの人々に健康な生活をもたらすに違いない。浅尾氏は、日本語部門の最優秀賞にも選ばれた。なお、各賞の受賞者は記事末尾をご覧いただきたい。

日本語部門のファイナリストおよび審査員。

未来を拓く地方協奏プラットフォーム(HIRAKU)


「発表の導入部分で、自分の研究が身近な人にどのように関係するかを伝えられれば、聴衆は自ずと話の続きを聞きたくなる」とは、事務局からのアドバイス。その重要性は、英語部門の最優秀賞に輝いた島村勇德氏の話からもよく分かる。3MTへの2回目の挑戦で雪辱を遂げた彼は、X線光学という分野の存在を、まず一般の聴衆に伝え、その上で背景・新規性・インパクトを社会と関連付けてまとめることが課題だったと言う。「専門用語の厳選・直感的な表現・日常生活から広げる物語風の3点を意識し、さまざま英語レベルの友人たちと共に本番まで推敲していきました」と島村氏。

またLita氏も、「複雑なものを単純化して理解しやすくすることは、特に、異なる分野の一般の聴衆に伝える場合は、常に課題」と言う。発表の中で、自身の研究対象である胎盤から放出されるエクソソームについて、「郵便配達員の仕事とよく似たもの」と説明した彼女は、このアイデアが評価されて光栄に思うと喜びを語ってくれた。

一方の浅尾氏は、内戦の影響が現在も残るカンボジアに、戦後復興を遂げた日本を重ねていた。正しい知識の普及と定着により予防可能な疾患はたくさんあると話す彼女は、受賞に際し「国内外の多くの方々が携わる歯科医療支援活動がベースとなっている今回の研究内容について、さまざまな分野の方の前で発表する機会が持てたことが大変うれしい。『お口の健康から全身の健康へアプローチする研究』によって、人々の笑顔があふれる未来を目指す」と今後の抱負を語ってくれた。

広島大学学長特命補佐で、審査委員長を務めた相田美砂子(あいだ・みさこ)氏は審査結果発表の中で、「皆さんそれぞれがとても素晴らしかった。受賞にはならなかった発表者も、今日、ファイナリストとしてこの場に立って発表したことに自信を持って欲しい」と総評を述べた。

続く閉会の挨拶では、科学技術振興機構(JST)プログラム主管の山本恵司(やまもと・けいじ)氏が、「博士課程学生は世界をリードする人材として期待されている。同時に、発表力、課題発見力が期待されている。博士課程学生の成熟力を確かめる大会であり、ここで経験したことは明日の飛躍につながると考えている」と、応援のメッセージを送った。

昨年から審査に参加している小誌は、発表技術が一段と高まったことに目を見張った。ファイナリストと、惜しくも予選突破とならなかった応募者の差はわずかであったと想像する。それを反映していたのが、企業賞を贈られながらも大会出場に届かなかった学生たちの存在である。一方で、研究の歴史と自身の研究がまぜこぜになっている発表者たちも気になった。3分間で自身の研究までたどり着くのは、それだけ難しいのだ。事務局の総評はコミュニケーション技術向上の「虎の巻」となろう。

大会当日の動画および事務局総評は、主催の「未来を拓く地方協奏プラットフォーム(HIRAKU)

」のHPにて公開中である。(

https://hiraku.hiroshima-u.ac.jp/event/competition_2021/report/

(編集部)


最優秀賞

日本語部門

「お口の健康から子どもたちの未来を育む」

浅尾友里愛(あさお・ゆりあ)氏(広島大学)

英語部門

“Atomic-scale “chest X-rays” with ultrasmall mirrors”

島村 勇德(しまむら・たけのり)氏(東京大学)

優秀賞

日本語部門

「超解像観察に向けた金属ナノ構造の3次元配置技術!」

渡辺 智貴(わたなべ・ともき)氏(徳島大学)

英語部門

“In Search of Home: The return of the Vietnamese Westerners”

Daniel Le氏(金沢大学)

オーディエンス賞

日本語部門

「ほめ言葉を通した異文化理解」

Mutia Kusumawati氏(広島大学)

英語部門

“A Mysterious Messenger in Placenta Break Down the Problems in Preeclampsia: Possible?”

Lita Rakhma Yustinasari氏 (山口大学)


[プレスリリース] 子供たちのお口の健康からレントゲン写真で原子が見える技術まで-「未来博士3分間コンペティション2021」(未来を拓く地方協奏プラットフォーム(HIRAKU)主催)の受賞者を発表

※この記事は「Nature ダイジェスト」から転載しています。

転載元:Natureダイジェスト2021年12号

未来の博士たちによる3分間の熱闘!

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211219

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