郵便受けにある日突然、現金が 住宅街で次々発見 「ありがたいが、気持ち悪い」

郵便受けに入っていた現金4千円を手に持つ男性

 大阪市旭区の住宅街で10~12月、1万円などの現金が入った茶封筒が郵便受けから相次いで見つかった。差出人も宛名もなく、誰が何のために投函したのか分からない。「ありがたい気持ちはあるが、気持ち悪い」。突然もたらされた謎のプレゼントに、住民たちは困惑を隠せないでいる。(共同通信=吉田夏海、小林直秋)

 ▽「日本一安い商店街」のそばで

 

大阪市旭区の千林商店街

旭区には100年以上の歴史を誇る千林商店街がある。地元密着の店が多く、下町情緒が漂う。各店が価格競争にしのぎを削ったため「日本一安い商店街」と呼ばれた時代もあった。関西のテレビ番組では、買い物客の意見を取材するためのロケ地としておなじみ。アニマル柄の服を着た主婦らも行き交う「大阪らしい」スポットだ。

 現金が投函されたのは、その商店街のすぐそば。大阪メトロ千林大宮駅前に広がる、旭区大宮3丁目の一部だった。しかも、細い1本の道路を挟んだ両側の地区に集中している。2~3階建ての住宅が並び、昼間でも人通りが少なくのどかな街だが、かつては長屋が立ち並び、活気もある地区だったそうだ。

郵便受けへの現金投函が相次いだ住宅街=大阪市旭区

 ▽「使ったらいい」と言われても

 11月26日午前6時半ごろ、住民の60代男性はいつものように郵便受けから新聞を取ろうとした際、茶封筒を見つけた。中をのぞくと1万円札が1枚。「トラブルに巻き込まれたら嫌やな」と思い、すぐに110番した。男性は「善意なら名乗ってほしい。どんなルートのお金かも分からない。やっぱり匿名というのが気になる」と胸の内を明かした。

 現金投函のうわさは地区ですぐに広まった。別の60代の男性は「うちにも来るかも」と思い、ある日郵便受けを見ると、やはり封筒が。4千円が入っていた。近所の人から「使ってもうたらええねん」と勧められたが、男性は「気が引ける。入れた人が取りに帰ってくるかも」と考え、金庫で保管しているという。「お金をもらうのはありがたいけど、よく分からんから使うに使えないし困る」と弱り顔だった。

茶封筒と現金4千円

 ▽使ったら法的に問題がある?

 相次ぐ珍事に、大阪府警旭署幹部は首をかしげた。「寄付なのだとしたら、行政を通して施設にする方が良いのに、なぜ住宅の郵便受けなんだろう…」。署によると、郵便受けに現金があったとの申し出は、10月31日~12月13日に20件ほどあった。いずれも茶封筒入りで、差出人の名前も、投函した趣旨を説明するような手紙もなかった。

 署に届けられた現金は拾得物として扱われている。これまでに確認されたのは計約20万円。1万円が最も多いが、5千円や8千円、1万7千円などもあり、金額はばらばらだ。中には2回も現金が入っていた人もいた。

拾得物件預り書

 法律上は使っても問題はないそうだが、署の幹部は「認知症の高齢者が配っている可能性も考えられる」と心配げに話した。近隣からの不審者情報は把握していない。住人からのパトロール要請も来ていない。「悪いことではないし、警察が注意喚起する話でもない」として、すぐさま何か対策を打つという状況ではないようだ。

 

大阪府警旭署

もし配っていた人が判明したら、警察はどうするのだろう。現金の配布自体は罪に当たらないため「寄付のような、別のやり方がより有益に使われると諭すくらい」だという。

 ▽思い出される「タイガーマスク」

 匿名による現金の寄付や支援物資の配布は、これまでも確かにある。有名なのは児童養護施設などに人気漫画の主人公「伊達直人」を名乗って、ランドセルや現金を寄付する「タイガーマスク現象」だ。2010年ごろから確認され、全国に広がった。東日本大震災後には被災地への支援として、行政機関に高額の寄付金が届くこともたびたびあった。

 こうした例なら、配布した人の意図は想像がつく。しかし、今回のように大阪の下町のごく一部地域に配るのは特異だ。何らかの善意なのだろうか。

 住人の男性は「区画一帯となると、善意で配ってくれているのかなと思う。ただ、少しずつ住宅に配るより、ちゃんと名乗って、別のところにお金を寄付したら良いのに」と話した。

郵便受けを確認する男性

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