キムチの本場、自家製・工場製品で味比べ 家庭におけるキムジャン風景の伝統と変化

朝鮮では寒さとともにやってくるキムジャンの季節。キムジャンとは長い冬に備えて春先まで食べるキムチを漬ける朝鮮民族伝統の食文化だ。

朝鮮では毎年11月になると、白菜を満載したトラックが町を走り、各家庭で一斉にキムジャンが始まる。変わらない風景がある一方で、昨今、キムチの工業的生産の活発化で各家庭の食卓には変化も現れている。

 柳京キムチの登場

 毎年キムジャンの季節になるとリ・キョンシルさん(64、平壌市牡丹峰区域在住)の家には、近隣住民らが続々と集まってくる。近所でキムチ漬けの名人として知られるリさん。住民たちは「わが家のキムチももっとおいしく」と、その極意を習おうとやってくるのだ。

リ・キョンシルさんの家のキムジャンのようす(朝鮮新報)

 絶妙に塩漬けした白菜に、トウガラシ粉、ニンニク、ネギ、さまざまな海産物などでつくったヤンニョムを白菜の葉一枚一枚に丁寧に塗り込んでいく。甕に入れたキムチが漬かってきたらキムチムル(水)を注ぐ。

 「キムジャンの基本は真心。塩度や糖度だけでなく温度まで調整しながら冬の間中、真心を尽くしてこそ春先までおいしいキムチの味を保てる」とリさん。住民らは、リさんの手ほどき通りに同じ手順、同じ材料でつくっても、リさんの味にはなかなか近づけないのだとか。

 リさんは毎年11月初旬にキムジャンを始めるが、今年は例年より気温が高かったため11月末に始めた。

 この季節になるとリさんは、家にやってくる近隣住民のためにサツマイモをふかしておくという。リさんは、「ほくほくのサツマイモを、ヤンニョムをたっぷり塗り込んだ浅漬けキムチと一緒に食べる。わが家のキムジャンになくてはならない要素です」と笑う。

 真っ赤に染まっていくキムチを囲みながら語らい、笑い合う。今や高層アパートが立ち並ぶ平壌でも、昔と変わらないそんな風景がある。

白菜キムチ(上)とカクテギ(朝鮮新報)

 一方、近年は自家製のキムチだけでなく、柳京キムチ工場のキムチが食卓に並ぶ家庭も増えている。

 「春夏秋冬、一年中人々においしいキムチを」との国の方針で近年、工業的にキムチを生産する現代的な工場が各地につくられた。2016年に操業した柳京キムチ工場はその先駆けだ。

 工場では操業以来、白菜キムチとソクパクキムチ(白菜とダイコンの混ぜキムチ)、カクテギ(ダイコンのキムチ)など需要の高いキムチを量産し、品質向上に努めてきた。「伝統的なキムチ本来の味を生かした、すっきりと香り高く、食欲をそそる」というのが消費者の評価だ。

 平壌の各区域に設置された柳京キムチ工場の売店で注文を受け付けている。3キロ、10キロ、50キロでそれぞれパッケージングされた既製品もあれば、必要な分量だけ買うこともできる。

 烽火山ホテル前の売店に勤めるリ・クムスクさん(42)によると、柳京キムチの需要は年々増えているという。「今年はこの売店だけでも毎日1500キロ以上売れる。白菜キムチとソクパクキムチ、白キムチ、子ども向けのキムチが一番売れる」と話す。

 美味しくていつでも手に入る柳京キムチの登場によって近年、各家庭で漬けるキムチの量が以前より減っている傾向がある。

 「柳京キムチ一筋」という家庭もあるようだ。平壌駅前の売店を訪れていたファン・ソニさん(42)もその一人。「私が漬けるキムチより、柳京キムチの方がおいしいから。種類も豊富でいろんなキムチを食べられるのがうれしい」と話す。

柳京キムチ工場の売店でキムチを購入する市民(朝鮮新報)

 キム・ソノクさん(62、牡丹峰区域在住)の家庭は自家製キムチと柳京キムチの両方を食卓に並べるという。

 キムさんは、「柳京キムチはおいしいけど、自家製キムチが工場のキムチよりおいしくないなんて言われたら面目ない。確かに以前に比べたら漬ける量は減ったけど、その分味に磨きをかけている。柳京キムチと私のキムチ、どっちがおいしいか競争しているんです」と笑う。

 日進月歩で発展する暮らしの中で、伝統を守りながらも、より便利で、よりおいしく、より豊かな食文化を楽しむ。それがキムジャンの新しい風景なのかもしれない。

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