来年の中国経済政策は期待薄?2022年中国当局が重要視していることとは

景気の鈍化を受けて、中国当局は各種政策の緩和姿勢を見せ始めています。過去の景気の悪化局面では、中国の経済政策に対して国内外のマーケットは大きな注目を寄せていました。公表された来年の経済政策方針を概観したうえで、来年の中国の経済政策に期待すべきか否かを考察します。


来年の中国経済政策は景気安定化を最重要視

米国、欧州を始めとした主要先進国が金融政策の正常化、利上げを模索し、新興国においてもインフレ対応から利上げを実施する国が増えています。その一方で、中国では金融市場への流動性供給や預金準備率の引き下げなど、金融緩和的と受け取れる措置が実施されています。果たして、来年の中国経済政策に期待しても良いのでしょうか。まずは、公表された来年の経済政策方針を概観します。

12月8~10日の日程で、中国の重要会議にあたる中央経済工作会議(以下、工作会議)が開催されました。同会議では、毎年、その年の景気や経済環境、課題を鑑み、翌年の全人代で可決する経済政策方針が議論されます。

その後、工作会議後に公表された声明では、来年は景気の安定化を最重要視することが強調されました。ただし、内容としては昨年の方針である「積極的な財政と穏健な金融政策」という大枠に変化はなく、景気の鈍化を認識しつつも、政策姿勢の明確な緩和への転換は確認できませんでした。

具体的な政策をみますと、財政政策については、事前に中央政治局会議で指摘されていた消費刺激策についての言及がほぼなく、例年通り減税と手数料の引き下げ、インフラ投資の適切な実施が示されたのみでした。こうした財政政策の実施に際しては、「地方政府の隠れ債務の発生を断固として阻止する」との文言が入り、地方政府の成長率重視の野放図な財政の実施をけん制するなど、緩和への慎重姿勢を示しました。

また、足元の景気鈍化の主因となっている不動産政策についても、「不動産は住むものであり、投機の対象ではない」という文言が再び使用され、当局が投資の抑制政策を継続する方針が示されました。

総じて見ますと、中国当局は来年の経済運営の安定化を目指し、これ以上の不動産政策の厳格化など景気の下押し圧力を強めるような政策の導入には慎重姿勢を示しているとみられます。その一方で、積極的な景気刺激を行う姿勢も示しておらず、来年の中国当局の経済政策は控えめなものに留まるだろうと筆者は考えています。

来年の中国経済政策は期待薄だが、中国景気の底打ちが近づく

筆者は、来年の中国財政・金融政策は景気浮揚とは言えない控えめな内容であったものの、不動産および環境政策の緩和調整により景気への下押し圧力が弱まる可能性があると評価しています。

来年の中国経済政策方針における最大の注目点は、不動産政策や二酸化炭素の排出を抑えるための環境関連規制の更なる引き締め強化の可能性が低い、ということになると考えています。これまで、2021年央にかけて強化されてきた不動産投資の抑制政策や二酸化炭素の排出規制は、投資・生産を鈍化させ、景気への強い下押し圧力となっていました。

特に不動産投資の鈍化は中国景気には大きな悪影響を及ぼしており、例えば11月の中国の70都市の新築住宅価格の上昇率は前月比で▲0.3%と2カ月連続で下落、住宅の新規着工面積も年初来で前年比▲8.4%と大きく減少するなど調整色を強めています。不動産関連の産業はGDPの約14%を占めることから、同産業の活動の鈍化は景気に大きな影を落としていました。また、環境規制も鉄鋼や化学製品など電力消費の多い産業の生産を抑制してきました。

筆者は、工作会議の声明をみるに、こうした政策および規制が、これ以上強化されず、やや緩和方向へ微調整される可能性が高いと考えています。また、政策姿勢の微調整により、中国経済への下押し圧力が近い内にも弱まり、景気が底を打つ可能性があるとも考えています。

不動産規制は、過度なデベロッパー向け融資の厳格化や住宅ローン承認の長期化を是正するよう当局が指導を始め、一部報道によれば不動産向けの融資や住宅ローンが徐々に出始めているとされます。また、環境規制については、産業向けの電力需要を満たすようエネルギー供給を安定化させる方針が示されています。

当局は景気の底割れ回避にのみ注力か

もっとも、中国景気にはいくつかの懸念要素が残ります。外部環境を見渡すと、主要先進国での財需要の伸び鈍化から今年の中国経済を下支えした輸出が鈍化する可能性があります。また、国内では、2~3月の北京五輪・パラおよび年後半に予定される党大会など重要イベントを控え、感染拡大を防ぐべく厳格なゼロコロナ方針が継続され、消費の回復が遅れる可能性も指摘できます。

これまで述べてきたように、当局が示した来年の経済対策は現状必要最低限の調整に留まっています。不動産投資を抑制しつつ景気の底割れを防ぐという難題に加え、景気を支えていた輸出の鈍化など新たな懸念要素もあり、来年の当局の経済運営は難局が想定されます。

こうした環境下、更なる政策の緩和を期待する声も大きいと思われますが、習近平主席が成長を犠牲にしてでも質の高い成長を目指す方針を掲げる中、筆者は当局が持てる政策ツールを小出しにしていくと考えています。

従って、当局が大規模な金融緩和や消費刺激といった政策を実施することは期待しにくいものの、中国景気の急速な悪化が回避され、景気の底打ちが確認できるかどうかが来年の中国経済の注目点になるのではないでしょうか。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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