ダークマターのない銀河を発見? 銀河形成モデルは新たな展開へと向かうのか

【▲超拡散矮小銀河「AGC114905」。銀河の恒星の発光は青で示してあり、緑の雲は中性の水素ガスです。最新鋭の望遠鏡を用いて40時間に及ぶ詳細な観測を行いましたが、この銀河にはダークマターが含まれていないように見える(Credit: Javier Román & Pavel Mancera Piña)】

幽霊のような物質「ダークマター」(暗黒物質)と銀河は切っても切れない関係にあります。それはダークマターが銀河の形成に重要な役割を果たしていると考えられているからです。

オランダの研究者を中心とする国際的な天文学者チームは、最新鋭の望遠鏡を用いて40時間に及ぶ詳細な観測を行ったにもかかわらず、銀河「AGC114905」にダークマターの痕跡を発見することができませんでした。この観測結果はダークマターのない銀河の存在を強く証拠付けるものです。

問題の銀河、AGC114905は約2億5000万光年の距離にあります。「超拡散矮小銀河」(ultra-diffuse dwarf galaxy)と呼ばれる銀河に分類されていますが、「矮小銀河」という名前は、その大きさではなく、その低い光度を表しています。サイズは天の川銀河とほぼ同じですが、含まれる恒星の数はその1000分の1程度しかありません。すべての銀河、特に超拡散矮小銀河は、ダークマターによって支えられていなければ存在できないというのが一般的な考え方です。

研究者たちは、VLA(Very Large Array)電波望遠鏡を使用して、2020年7月から10月までの間、40時間に渡ってAGC114905でのガスの回転に関するデータを収集しました。

続いて、X軸に銀河の中心からガスまでの距離、Y軸にガスの回転速度を示すグラフを作成しました。これは、ダークマターの存在を明らかにするための標準的な方法です。グラフは、AGC114905のガスの動きが通常の物質によって完全に説明できる(ダークマターの存在を必要としない)ことを示していました。

「これはもちろん、私たちがこれまでに行ってきた測定結果を裏付けるもので、私たちが考え、望んでいたことでもあります」とPavel Mancera Piña氏(フローニンゲン大学及びオランダ電波天文学研究所)は語っています。「しかし、理論的にはAGC114905にダークマターがあるはずなのに、私たちの観測結果ではそれがないという問題は未解決のままです。実際、理論と観測の差は大きくなる一方です」

研究者たちは、論文の中で、ダークマターがないことの説明として考えられる可能性をいくつか挙げています。

例えば、AGC114905は、近くの大きな銀河の重力によってダークマターが剥ぎ取られた可能性があります。「しかし、それはありえません」とMancera Piña氏は否定します。「銀河形成モデルとして最も定評のある、いわゆる「コールド(冷たい)ダークマターモデル」(cold dark matter model:CDMモデル)では、通常の範囲をはるかに超えた極端なパラメータの値を導入しなければなりません。また、CDMモデルの代替理論である修正ニュートン力学でも、銀河内のガスの運動を再現することはできません」

研究者によると、結論を変える可能性のある仮定がもう1つあると言います。それは、銀河を観測している角度の推定値です。論文の共著者であるTom Oosterloo氏(オランダ電波天文学研究所)は、「しかし、ダークマターが存在する可能性を考えるためには、その角度が我々の推定値から非常に大きく外れていなければなりません」と語っています。

一方、研究者たちは、2番目の超拡散矮小銀河を詳細に調べています。その銀河で再びダークマターの痕跡が観測されなければ、ダークマターの乏しい銀河の存在はさらに強固なものとなるでしょう。

果たして理論と観測結果は一致するのでしょうか? それとも観測結果を説明するために新たなモデルが構築されるのでしょうか? 今後の展開が待たれます。

Image Credit: Javier Román & Pavel Mancera Piña
Source: Royal Astronomical Society / 論文
文/吉田哲郎

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