ラップは軽快、スープは魚介 「らぁめん臨機」(熊本市中央区) 【味のある店】

らぁめん臨機の「半熟味玉らぁめん」

 プロのラッパーがラーメンを作っている。そう聞いて訪ねた子飼商店街(熊本市中央区)。看板はアフリカ民族のイラスト。店内はラップミュージックが流れ、暖色の照明が異国の雰囲気を醸し出す。昔ながらの店が並ぶ商店街にあって、「らぁめん臨機」は異彩を放っている。

 店の雰囲気とは裏腹に、ラーメンのスープはタイやマグロの頭を焼いたり炊いたりしたものと、数種類の野菜を約5時間煮込んでだしを取る和風テイスト。煮干しやかつお節を使わず、生の魚から調理する“鮮魚系ラーメン”だ。

 「半熟味玉らぁめん(750円)」は、滋味にあふれた透き通ったスープが手もみしたちぢれ麺に絡む。麺を完食し、残しておいたスープにシメの「たい飯(250円)」を入れる。だしを取る際に使ったタイの身はやわらかく、高級店で食べるような上品な鯛茶漬け風になった。

ライブで歌う「らぁめん臨機」の中川原店主(右)=本人提供

 店主の中川原堅一郎さん(49)は、25歳でプロミュージシャンを目指し上京した。29歳の時、「餓鬼レンジャー」のラッパーで同市出身のポチョムキンさんとDJのMO-RIKIさんと、2人のもっこすを意味する「DOSMOCCOS(ドスモッコス)」を結成。曲はテレビの人気バラエティー番組「水曜日のダウンタウン」でも使われ、今年はおてもやんをアレンジした曲を収録したアルバムがイギリスでリリースされた。

 念願のプロになったとはいえ音楽だけで食べていくことは難しく、東京ではラーメン店でも働いた。「客との距離が近く、直接反応をもらえるのはライブと似ている」と中川原さん。9年前に帰熊し、当時の店の味と店名をそのまま引き継ぐ形で現在の店をオープンした。今もラッパーと二足のわらじで、ライブや夏祭りでマイクを握って言葉を紡ぎ、韻を踏む。

「らぁめん臨機」の中川原堅一郎店主=熊本市中央区

 店は妻のあき野さん(46)と切り盛りしており、まるでラップのような夫婦の掛け合いも評判だ。ネット上の評価に「夫婦げんかがひどくて飯がまずくなる」と書かれたこともあるが、ラップのリリック(歌詞)では気の利いたディス(けなし)もスキルの一つ。本当は、きょうだいに間違われるほど仲が良い。

 かつて「市民の台所」として親しまれた子飼商店街も大型郊外店の進出や商店主の高齢化などで衰退が目立つ。そんな中、中川原さんはラップ魂で気炎を吐き続ける。「子飼商店街から描く奇想天外な展開、ラーメン屋ラッパーはまだまだ全開、ついてきなっせ損させんばい」(上野史央里)

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