【選挙どうする?】若者低投票率 向上の鍵は 栃木県出身、30代識者に聞く

岩井俊宗さん ◆宇都宮大国際学部卒業後、ボランティアコーディネーターを経て2008年、若者による社会課題の解決を進める「とちぎユースサポーターズネットワーク」を設立。宇都宮市出身、在住。

 10月の衆院選は、総務省の速報値によると10代の投票率は43.21%で、全体の55.93%を大きく下回った。若い世代が使いこなすインターネット、会員制交流サイト(SNS)では衆院選の話題は盛り上がっているように見えたが、なぜ投票につながらなかったのか。どうすれば政治や選挙に関心を持てるのか。若者と関わる機会が多い30代の識者に聞いた。

■社会とのつながり構築を とちぎユースサポーターズネットワーク代表理事 岩井俊宗さん(39)

 -若者は日頃、どのように情報収集しているのか。

 「友人のツイッターや(写真共有アプリの)インスタグラムなどから情報を得て、それに“共感”できるか、お金や時間をかけるに値するかを調べてから行動に移る。SNSは興味のある情報しか入ってこないので、政治や社会に関心を向けないと情報が届かない。その上、『政治家をフォローしたら友達から敬遠されそう』などと、あえて(情報を)フォローしない若者が多いと考えられる」

 -SNSでは衆院選の話題が盛り上がっているようだったが、投票率は上がらなかった。

 「ある学生は『投票しようと思ったけれど、学校やアルバイトの予定が詰まっていて行けなかった』と話していた。現代の若者は(動画投稿サイトの)ユーチューブを見るのと同様、『好きなタイミングで、好きなこと』というライフスタイル。アクセスしにくいと行動しない。期日前投票を含め投票の時間、場所が限られる現在の制度は若者の行動特性とずれている」

 -投票する候補者をどう決めるのか。

 「ボートマッチなどで自分の考えに近い候補者の情報は得られるが、仮に一致率が40%だったら『“共感”できない』と投票をためらうだろう。政治により生活が変革すると実感しにくいと、『投票しても変わらない』『シニアの声が優先される』と諦めてしまう人もいるのでは」

 -若者と政治や社会とを結びつける策はあるか。

 「議員は社会や地域の課題解決のために行動し、国民や市民へ説明する役割がある。例えば、まちづくりの最前線に足を運び、市民と一緒に課題を解決してほしい。参加した若者たちも、議員の人柄や魅力を知ることができ政治、社会への関心が生まれるだろう」

 「議員が学生インターンを採用するのも手だ。若者が得意なSNSで活動を紹介できるようになるし、学生自身が市民代表としてチェック機能も果たせる」

 「個人的には、18歳未満に投票権がない制度では、子どもたちの声が反映されにくいと考えている。より若い年代にも何らかの形で投票権が与えられれば、政策が実現したときに『意見が届いた』と実感し、政治に興味を持てるのでは」

■交流深め地道に情報発信 茨城県つくば市・前副市長 毛塚幹人さん(30)

 -若者の低投票率がたびたび話題になる。

 「総務省がまとめた衆院選の年代別投票率の推移では、以前から20代の投票率は全体より低い傾向にあり、ここ30年ほどは落ち込みが大きかった。30代以降は結婚、家族の誕生などで行政と関わる機会が増えて投票するきっかけができるが、10、20代はそうした機会が少ないためいかに接点を生み出すかが鍵となる」

 -今の若者の特徴は。

 「(2000年以降に成人した)『ミレニアル世代』よりさらに若い『Z世代』は大学入学と同時に企業インターンを始め、起業も視野に入れているので地域が若者と接点を持つチャンスもある。働き方が多様化しており、出身地などにこだわらず国内外を含めて住む、仕事する場所を選べる時代になっている」

 「(衆院選で)下野新聞社が行ったウェブアンケートで、10代は注目するテーマに『気候変動』や『SDGs』を挙げており、長期的なトピックに関心があることがうかがえた。このような分野に地域が取り組むことは若者にとって魅力にもなり、『持続可能な都市』として定着やUターンという選択肢ができる」

 -若者と地域、社会とをつなげるには。

 「10、20代と年齢が近い30、40代が架け橋となり地域でのボランティアや起業などを後押しし、地域や行政の課題と接する機会をつくる。さらに若者が提言する場を設けるなど、取り組みを地道に発信することも大切だ。身近な友達が紹介されることで“共感”が生まれ、コミュニティーの枠を超えた盛り上がりにつながるはずだ」

 「地域や行政、企業も時代に合わせ変容することが求められる。地元自治体がつながる県外、海外の姉妹都市で若者が政治や地域とどう関わっているかなどを学ぶことも重要では」

 -地域や社会の情報を、若者へどう伝えるべきか。

 「例えば、新聞社が情報を伝える手段は新聞記事に限らない。若手記者と若者が定期的にディスカッションすることで、若者は情報の受け取り方や読み比べ方、ニュースの背景を学べる。記者は若者の声をじかに聞ける。それぞれ気付きが多い場になるだろう」

毛塚幹人さん ◆東京大法学部卒業後、財務省職員を経て、2017年から今春まで茨城県つくば市で副市長を務める。現在は地方自治体のアドバイザーとして政策立案や経営支援に携わる。宇都宮市出身。

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