島の宅配サービス、維持に不安 「貨客混載」の議論本格化 平戸市

軽トラックいっぱいの荷物を全て降ろし、配達準備をする芳孝さん。出発まで1時間以上掛かることもある=平戸市度島町

 長崎県平戸市で、宅配用荷物と人を同時に運ぶ「貨客混載」の実証実験に向けた議論が本格化している。ただ市の検討会では、地方都市の「最前線」で宅配事業者が置かれた厳しい状況もあらためて浮き彫りになっている。
 平戸港からフェリーで約30分。周囲12キロの度島は人口約640人の島だ。島内での宅配サービスは、地元の野田商店が平戸島内の業者から請け負う。店主の野田壽代さん(68)と義弟夫婦の計3人が担い、住民にとって欠かせない存在となっている。
 正午、荷物を積んだ専用の軽トラックごとフェリーから引き継ぎ、配りやすいようにすべての荷物を専用トラックと店の車に積み直す。配達先の住民に受け取り可能かどうかを尋ねるなど、出発前の準備にも余念がない。1時間以上掛かることも。フェリーが運休する元日と荒天日を除き、その作業が毎日続く。
 専用軽トラックは、午後3時50分発のフェリーで送り返さなければならない。それまでにいかに効率的に配達できるか。日々腐心する。壽代さんは「島外に買い物に行けない、店まで荷物を取りに来られない高齢者もいるので、辞めるわけにはいかないが、10年後に同じようにできるかどうかは分からない」と見通しの厳しさを語る。
 島で40年以上、配達に携わる義弟の芳孝さん(62)も「義姉と自分、どちらかが仕事ができなくなると、今の配達を続けるのは難しい」と声を落とした。
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 平戸市の貨客混載実証実験は、総合建設コンサルタントの日本工営(東京)と市が民間公共交通事業者、宅配業者に呼び掛け、検討会を設置。これまでに2回議論した。

貨客混載の実証実験実施に向け議論する検討会のメンバーら=平戸市岩の上町、平戸文化センター

 議論の過程であらためて浮かび上がった宅配サービスの過酷な現状。市などによると、宅配用荷物の総量はネット通販の利用などもあり増加傾向だが、配送網の維持に課題を抱える。2024年にはドライバーの長時間労働が法規制される見通しで、物流各社は、今の配送網を維持しようとすればコストがさらに膨らみ「事業継続が難しくなる可能性がある」と関係者。
 検討会会長の吉武哲信九州工業大大学院教授は「貨客混載を実現できても、人口減少の歯止めにはならない。住民サービスをどう維持するかという視点で取り組むことが、交通網や物流網を守っていくことにもつながる」と議論の意義を語る。
 検討会は貨客混載の実施に当たり、行政による生活支援事業などを宅配サービスに組み込むことで事業者参入を促し、人流、物流サービスの維持を図りたい考えだ。今後も議論を重ね、来春までの実験開始を目指す。

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