イチロー氏が女子高生に授けた“意外な”教え 「一番ダメなのは平常心を保とうと…」

女子高校野球選抜チームの質問に答えるイチロー氏【写真:中戸川知世】

2009年のWBC決勝「敬遠してくれれば楽だなあ」ところが…

日米通算4367安打のレジェンドが披露する打撃論に、女子高生も興味津々だった。18日、神戸市のほっともっとフィールドでは、イチロー氏(現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が結成した草野球チーム「KOBE CHIBEN」と女子高校野球選抜チームがエキシビションマッチを行った。試合を終えたあとは質疑応答の時間が設けられ、自身が築いてきた技術論、精神論を惜しみなく球界の“後輩”に伝授した。

「チャンスに打席が回ってきた時に自分の気持ちが落ち着かない。イチローさんはそういった打席で、何を考えていますか」という質問に、イチロー氏は自らの経験を元にしたアドバイスを送った。

「そう聞かれて思い出すのは僕の経験上、2009年のWBC。知ってるみんな? 決勝戦、(相手は)韓国だったんだけど」と切り出したのは、ドジャースタジアムで行われた韓国との決勝戦だ。先攻の日本は9回に3-3の同点に追いつかれ延長戦に突入。そして10回2死一、三塁でイチロー氏に打席が回った。

「あの打席が凄く浮かぶ。それまで全然、結果でてなくて。一番、怖い打席。チャンスなんだよ、1点とれるチャンスなのに。あれ以上、怖かった打席はない。しかも比較の対象がないぐらい、断トツに怖かった。センター前打って点が入るんだけど、あの時の自分が一番あたふたしたと思うね」

マウンドには韓国の守護神、林昌勇(元ヤクルト)が立っていた。一走が二進して好機は広がり、カウント2-2からイチロー氏の打球は中前へ抜けた。2人が生還し5-3。日本はそのまま勝利し、2大会連続の優勝を果たした。イチロー氏が今回女子高生に伝えたのは、そこに至るまでの心の揺れだ。

「そこで大事にしたのは、自分のリズムを守りたいということ。守らないと本当にあたふたする。まずは自分のリズムに巻き込む。ただ、その時間がなかったというのもあって……。1死一、三塁で前のバッターが1球目をショートフライ。次が僕。何球かあると思っていたのが1球で終わってしまって、ネクストで準備ができなかった。そこで普通じゃない。歩いていく最中に、こんな流れは酷だなぁと思いながら、できれば……。2死一、三塁。敬遠してくれれば楽だと思いました。相手の監督がマウンド行って話してるんだけど『どうするのかなぁって。あぁ、座る(勝負)のね』って思った」

様々な場面をくぐり抜けてきたからこその境地…「平常心は無理」

百戦錬磨のイチロー氏ですら「断トツに怖かった」と振り返る打席。無数の視線が突き刺さる中でしっかり結果を出せたのもまずは、自分のリズムを守りきったからだ。

「そこで覚悟決めて、これは『僕の打席』にすると。そこにいくまで、普段の動きしていた。自分の普段やってるルーティンをやって、自分のペースになるかはなかなか、そうならないけど……。最終的に支えになったのは、それまで日本で7年、アメリカで8年、いろんな事を経験してきた。負けたこともたくさんある。でも苦しい場面も乗り越えたこともたくさんある。困難、難しい状態で臨んできたので、その自信、自信じゃないか。“誇り”が支えになった。もちろんあれ以上はないが、こういう場面に立ち向かってきたし、立ち向かってきた自信、それが支えになった」

イチロー氏と林昌勇の勝負は8球。このうちイチロー氏が状況が変わった1球として振り返るのがカウント1-2からの5球目、低めのスライダーをファウルにしたシーンだ。

「追い込まれてからのスライダーをファウルにした時。『これは僕の勝ちだ』と思ったファウルでしたね。だからやっぱり目の前の状況を受け止めて向かっていく、その姿勢がなかったら、向かっていく自分が作れない。それが重ねられない。難しいけど向かっていくしかないと思う」

どんな困難な状況でも、立ち向かい続けることで自信や誇りが生まれる。極限の場面ではそれが前へ向かうための原動力になる。数々の名場面を生んできたイチロー氏ならではのアドバイス。そして最後に残したのは意外な言葉だった。

「一番、ダメなのは平常心を保とうとすること。無理だから、無理です。保ちたいのは分かるけど、無理です。技術的にもし、平常心に近い形を取れたとしても、それで生まれた結果には自信は伴わない。自信を獲得するには、難しい状況で向かっていくしかないんだよね。リラックスして、練習の時の自分に近い状態(を作る)という考え方はとても危険、やりがちだけどね。勝負の世界で生きるなら、そういう姿勢は大事なんじゃないかな」(Full-Count編集部)

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