“公道仕様”のスーパーGT&SFが駆け抜けたレッドブル・レースデイ。NSX-GTはエンジンマップ変更も

 12月19日、東京都新宿区の明治神宮外苑特設コースにおいて、レッドブル主催のモータースポーツイベント『Red Bull Race Day(レッドブル・レースデイ)』が開催された。メインイベントとなるデモランでは2021年の全日本スーパーフォーミュラ選手権でRed Bull MUGEN TEAM Gohが走らせたダラーラ・SF19、そして2021年のスーパーGT GT500クラスに参戦したRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT、そしてMotoGPに参戦するレッドブル・アスリートの中上貴晶が操るLCRホンダ・イデミツのRC213V-Sが出走した。

 各車、サーキットとはまったく違う公道の路面、かつ12月下旬の低気温下で走行すべく、通常のレースウイークとは違った取り組みやセッティングが施された状況で登場。ここではデモランのために“公道仕様”となったホンダNSX-GTとダラーラ・SF19についてお届けしよう。

 レッドブル・レースデイの会場となる明治神宮外苑 特設コースは全長500m、往復で約1kmのU字型のレイアウトとなる。普段は一般車が通行する公道ゆえに、路面はダスティかつサーキットとは舗装も異なりグリップしにくい。また、12月下旬という季節がら、イベント開始直前の気温は手元の計測でも8度と低め。また、事前の練習走行は行われず、各車、ドライバー、ライダーはぶっつけ本番でデモランを実施するため、安全性を最優先にしたセッティングが各車に施された。

 まず、タイヤに関してだが、笹原右京、大湯都史樹のRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTはウエットタイヤを装着。一方、大津弘樹のダラーラ・SF19はスリックタイヤで臨んだ。両車ともにタイヤウォーマーを使用し、走行前からタイヤに熱を与えている。なお、このタイヤウォーマーはF1などで使用されるタイプとは異なり、温風を当ててタイヤに熱を与えるものとのことだ。

 さらに、両車共通する点が車高を大幅に上げているという点。写真や映像では視認することが難しいが、同イベントでダラーラ・SF19を駆った大津によると「コースイン側の車線は比較的平らですが、アウト側の車線になると下っています。なので、普通の車高だったらアウト側の車線やその中間でも車体の下面を打っちゃうます」という。具体的な車高数値までは確認していないとしつつ「チームがバン! と車高を上げてくれたのでぜんぜん問題なく走れました」と大津は話した。

 また、ダラーラ・SF19ではエンジニアが速く走れる公道用セットアップを考えたという。スリッピーかつバンプも多いなか、「それなりに速く走れるように考えてくれていたので、実際に乗った感触としては乗りやすかったです」と大津。しかし、観客席との近さやフォーミュラカーのダイレクトな挙動も相まり、デモラン中は恐怖感との戦いでもあったと明かした。

「やはりお客さんがすぐ近くにいるという恐怖感との戦いでもありました。なので、『もうちょっと踏みたいけど、止めておこう』という葛藤が心の中にずっとありました。パフォーマンスという面ではタイヤを空転させて急加速させたりして、スーパーフォーミュラの加速感は味わっていただけたかなとは思うのですけど、コーナリングスピードは僕たちの本気度で言えば……100%のうち5%とか、そのくらいしか攻めていません。100%の、限界ギリギリの速さというところは、是非サーキットに来ていただいて体感していただきたいなと思います」

 一方、Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTはスプリングのレートを柔らかめに設定し、ウエットタイヤを履いていたこともあり、「いつもとはぜんぜん乗り心地も違うし、ある意味コントロール性は良かったと思いますが、普段とはまったく違うクルマでしたね」と大湯。イベントを安全かつ、確実に終えるために“本当に安全な値”でセットを組んだというが、「魅せられるところは魅せたと思います」と振り返る。

 それは、同じくRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのステアリングを握った笹原が語った「エンジンマッピングについてもエンジニアさんに変更していただいています」という点にも通づるところだ。

「せっかくお客さんがたくさんお越しになるイベントなので、できる限り音や迫力が伝わるようアグレッシブな方向に調整していただいて、それもあって音や迫力は出せたのじゃないかと思います」と、同イベントのコンセプトである“轟音東京”に沿ったエンジンマッピングを施していたことを明かした。

「公道ということで、基本サーキットで走るよりはグリップが低い部分だったり、路面のアンジュレーションやギャップが不規則というか。予想がつかない部分もあったり。なので全開100%で走っていたというわけではなく、ある程度マージンは保っていましたが、なにより楽しかったですね」と笹原は走行を振り返った。

 走行を終えた全ドライバー、ライダーが「楽しかった」と振り返ったレッドブル・レースデイ。その裏側では絶対にクラッシュできないという状況のもと、安全性を最優先にしたセットアップを施しつつ、モータースポーツの生の迫力を届けるべく、ドライバー、ライダー、そしてチームによる工夫があったのだ。

レッドブル・レースデイでデモランを行うRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(笹原右京/大湯都史樹)
車高を上げたことタイヤハウス内部がよく見えるRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT
走行開始前の3コーナー。細かい凹凸こそ見えるがあまり汚れていないように見える
3コーナー進入時のRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT。コース上から細かい落ち葉などが舞い上がる
タイヤに張り付いたゴミなどからダスティな路面コンディションが見てとれる
観客席と近いがゆえに、「もうちょっと踏みたいけど、止めておこう」という葛藤があったと明かした大津弘樹
2コーナーのマンホールの蓋を避けて走る大津弘樹。気をつけながらも「実際走っていると見えないです」と語った。
大津弘樹(Red Bull MUGEN TEAM Goh)

© 株式会社三栄