国公立大学入試のハードルは下がっている?一部の大学は意外に低い入学率

大学入学共通テストまであと1ヶ月を切りました。多くの専門家が入試制度改革2年目は、共通テストの平均点が下がると予想しています。多くの受験生は不安な気持ちをかかえながらも目標校の合格に向けて取り組んでいることでしょう。今回は文部科学省の資料から国公立大学志望者が多少でも希望が持てそうなデータを見てみます。

堅調な国公立大人気、文低理高の学系人気

大手予備校各社の模擬試験結果なども出揃い、2022年度入試の全体動向も見えてきました。河合塾の大学入試情報サイトKei-Netに詳しい解説が掲載されていますが、2022年度入試はコロナ禍の影響は残りつつ、昨年とはやや様相が異なりそうです。

模擬試験の志望動向などから、2022年度入試では国公立大学の人気は堅調に伸びていると言えます。受験生の実人数が減少していることを考えると非常に底堅い人気と言えます。特に大阪公立大学(大阪市立大学と大阪府立大学の統合)、奈良女子大学(工学部)など注目の新設大学、学部があることも影響しています。首都圏では川崎市立看護大学(定員100名)の新設もあり、首都圏での看護系入試のハードルはやや下がることになるでしょう。

学部人気では「国際系」不人気の影響もあり、文系学部全体の人気が下がっています。ただし、「法学系」の人気は高く、難関大学から一般的な大学に至るまで幅広く志願者数が増加しそうです。また、「理」「工」「農」「医療」系の人気は高く、特に「農」はここ数年人気が低迷していました。ここにきて環境問題などへの意識の高まりも背景にあるとも考えられますが、中でも「獣医」の人気が突出しています。そして、「情報系」の人気は工学系、文理融合系のどの分野でも伸びているのが特徴です。もともと工学系の入学定員規模は大きいのですが、文理融合系(ほぼデータサイエンス系の学部学科)も近年の新増設ラッシュで学部学科が増えており、選択の幅がかなり広くなっています。

多くの専門家が大学入学共通テストの平均点が下がると予想していますが、仮に平均点が下がったとしても、冷静に状況を見渡してみましょう(私は下がらないと予想しています)。特に現役生は初めての共通テストですので、「平均点が下がる=自身の目標点を下回る」ことになりますので、精神的にかなり落ち込むと思いますが、平均点が下がれば各大学のボーダーラインも下がりますので、落ち着いてください。また、高卒生は昨年の得点よりも下がることになるため、よりダメージが大きいかも知れません。一人だけで考え込まないで、必ずチューター、講師、予備校のクラス担任などに相談しましょう。

参考:河合塾の大学入試情報サイトKei-Net「入試動向分析」

https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

文部科学省の公表データから見る入学手続き率

毎年、文部科学省が大学入学者選抜の実施状況をまとめて発表しています。入試方式毎の数字ではなく、大まかなデータですが参考になります。なお、データの発表はやや遅れて発表されるので、現在公表されているのは2020年度入試結果です。高大接続元年の2021年度入試結果はこれからの公表を待つことになります。

<全体>の表から国公立大学、私立大学の合格者のうち入学手続きをした人たちの割合(入学率)を知ることができます。さすがに国立大学は合格するとほとんどの人が入学手続きをしますので、92.4%と高くなっています。しかし、入学率100%の国立大学は2020年度入試ではありませんでした。意外かも知れませんが、東京大学も京都大学も100%をわずかに下回ります。公立大学は80.9%、私立大学は41.7%です。なお、この数字には一般選抜だけでなく、ほぼ専願となる総合型選抜・学校推薦型選抜の数字も含まれます。そのため、一般選抜だけを見ると私立大学の入学率はさらに下がります。

参考:文部科学省 入学者選抜実施状況 令和2年度実施状況の概要

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/1346790.htm

→一部の国公立大学では意外に低い入学率

一部の国公立大学では意外に低い入学率

<国公立大抜粋>を見ると個別の大学の状況が確認できます。国立大学では北見工業大学は半数近くが合格しても入学手続きをしていません。他大学に進学したか、予備校などに行っているものと推測できます。また、茨城大、宇都宮大、山梨大など首都圏に比較的近い大学で入学率が低い傾向が見られるほか、意外ですが横浜国立大、埼玉大など首都圏の有力大学も国立大学の中では入学率が低いことが分かります。都市部には伝統のある有力私立大学がひしめいています。本来であれば価格競争力がある、つまり授業料が圧倒的に安い国立大学を選ぶことが多いと思われますが、一定程度、私立大学を選ぶケースがあるということです。滋賀大、京都工芸繊維大なども都市部に近く、こうした影響によるものと思われます。

なお、公立大学の入学率が低いのは、大学入学共通テストで課される科目数が3~4教科の大学が多く、私立大学専願者も併願者しやすいことや中期日程を実施している大学が多いためと考えられます。中期日程は前期日程、後期日程の両方と併願ができます。もちろん前期日程で合格して入学手続きをすれば、中期日程の合格者対象者からは除外されますが、後期日程とのダブル合格者は合否結果が出てから事後選択的に選ぶことができます。このほか新潟県立大学や国際教養大学は、他の国公立大学とは異なる入試日程で実施しているため、入学率が低くなっています。こうして見ると公立大学の入試の仕組みは、国立大学と私立大学のいいとこ取りをしているようにも見えます。

受験生に有利なドミノ倒しの受験構造になる可能性も?

私立大学、公立大学ともに近隣地域にある国立大学の入試方法変更の影響も受けやすいので、同じ県内の国立大学に新学部が設置された時などは入学率に必ず変化があります。前述のように2022年度入試でも、いくつかの国立大学で改組や新学部設置の動きが見られます。新しい学部が設置されるとその募集人員分の合格者数が増えます。そうした国公立大学と併願者の多い私立大学は、それを見越して合格者数を例年よりも多く発表する可能性があります。特に2021年度入試では多くの私立大学で入学率が低下したケースが見られましたので、そのこともあって2022年度入試では、例年よりも合格者数を多くする私立大学も増えると見られます。それが都市部の場合、有力私立大学に対して劣勢な国立大学は、それを勘案して例年より合格者を多くすることも考えられます。ドミノ倒しのようですが、こうなると受験生にとってはかなり有り難い受験構造になってきます。

さらに、受験生にとって有利な点は、言うまでもなく大学志願者の実人数が減少していることです。そのため、地域あるいは学部系統によっては国立大学の入試のハードルがかなり下がってきています。その影響が周辺の大学に波及することで、その地域の入試全体のハードルが下がります。仮に来年の大学入学共通テストの平均点が下がり、目標としていた点数に届かなかったとしても、特定の難関大を目指している場合は別として、受験生にとって道が開かれる可能性が少しと見えてきています。

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