シーズンエンドの隠れた恒例行事。F1界を陰で支えるホスピタリティクルーたちの記念撮影

 F1では、シーズン最終戦に、各チーム、ピレリ、FIA、そしてフォーミュラ・ワン・グループがそれぞれ、スタッフ全員の集合写真を撮るのが恒例となっている。それぞれの公式カメラマンの指示のもと、チームのコミュニケーション責任者が、誰がどこに座るのかを伝え、名前入りの椅子を配置して、全員が自分の場所を把握してすべてがスケジュールどおりに進むように準備する。

 アブダビGP日曜朝、ヤス・マリーナ・サーキットのパドックを歩く時には注意が必要だった。ほとんどのチームがホスピタリティ・エリアからガレージを抜けてピットレーンまで、何十脚ものイスを運んでいたのだ。

2021年F1第22戦アブダビGP ドライバーたちの記念撮影

 一方で、全チームとピレリのホスピタリティクルーたちが集合して記念撮影を行っていることは、あまり知られていないだろう。

 F1のような厳格な世界のなかで、チーム間にこのような自発性と仲間意識が残っているのを見られるのはとてもうれしいことだ。

 この集合写真の撮影が始まったのは3年前のことだ。10チームとピレリのホスピタリティクルーが、日曜日の早朝、スタッフに朝食を出した後、椅子もなく、メンバーの位置決めもせずに、ホンダのオフィシャルカメラマンが写真を撮ったのだ。

 各チームの公式記念写真よりも、全員が弾けるような笑顔を浮かべているのが印象的だ。この自然発生的なお祝いを、彼らがどれだけ楽しんでいるかが分かる。

 彼らはF1ファンにとって無名のスタッフであり、街中や空港で会っても気付かれることはない。だが彼らは、F1界のなかで、誰よりも長時間、現場で働いている。朝7時から夜10時まで、おいしい朝食、ランチ、ディナーをチームスタッフ全員、そしてチームのゲストのために用意するのだ。

 彼らがいなければ、チームはうまく機能しない。決して高額ではないサラリーで、常に笑顔でF1界の人々に食事を提供してくれる。この写真に写っているのは、F1にとって、なくてはならない人々だ。

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