帰住先ない受刑者 薬やめ「地元に帰りたい」 第1部 老いと懲役・6

山口(手前)と向かい合う県地域生活定着支援センター職員。社会でサポートを受け入れる心構えを働き掛けている=諫早市小川町、長崎刑務所

 「山口さんの人生なので、山口さんの人生をより良くするため、山口さんの意見が大切なんです」
 諫早市の長崎刑務所の一室。アクリルパネル越しに高齢受刑者の山口幸三(仮名、83)と向かい合っているのは、県地域生活定着支援センターの清水敬太(28)だった。
 定着支援センターは、支えが必要な受刑者を出所時に福祉サービスにつなげるコーディネート業務などを担う。社会福祉法人南高愛隣会(諫早市)が全国に先駆けて2009年に開設し、現在は全都道府県に設置されている。保護観察所などと連携し、戻り先を調整。捜査や裁判の段階で福祉的な支援につなげる「入り口支援」も担うことから、出所時を「出口支援」と呼ぶ。
 山口は覚醒剤取締法違反で6度目の服役。第14工場で処遇され、出所が近づいていた。
 5月の面会には同刑務所の社会福祉士、北田里香(仮名、42)も同席していた。帰住先がなく高齢や障害のある受刑者を福祉的支援につなげる「特別調整」を担当している。昨年末ごろに初めて山口と面接し、「覚醒剤をやめたい」「地元に帰りたい」と意向を聞いた。担当の刑務官から生活状況も確認して調整してきた。
 九州出身の山口は地元の友人との付き合いから覚醒剤を始めており、そのまま戻ると再び手を出してしまう恐れがあった。そこで県内の更生保護施設で一時的に生活し、生活保護の申請手続きをしながら、戻り先を調整することになった。
 次の7月の面会で、清水が「介護保険って聞いたことがありますか」と尋ねた。「分からないです」。山口は「出てから相談しますので」と繰り返した。立ち会った刑務官は面会後、「一遍に何でもやれとなると本人はパンクしてしまう。一方で自由になりたい、サポートは煩わしいというのが本音」と支援につなぐ難しさを吐露した。
 高齢受刑者らに福祉サービスの重要性について理解してもらうため、全国の刑事施設で4年前に「社会復帰支援指導プログラム」が導入された。実は「長崎生まれ」だ。長崎刑務所では10年前に県内の関係機関と独自のプログラム作りに着手。その翌年にまとめたものが全国に広がった。
 長崎刑務所では、特別調整の候補者らに更生保護施設の施設長らが福祉サービスの重要性を説いている。首席矯正処遇官の大園雄介(44)は「本人の理解、同意が不可欠。社会でのサポートを受け入れられる心構えを持ってもらうよう幅広い働き掛けが大事」と語る。(敬称略)


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