調査捕鯨の“最期”見届ける 萩原さん「航海記」出版 船医として4カ月乗船

出版した「南極海調査捕鯨航海記」を紹介する萩原さん=佐世保市内

 長崎県佐世保市大潟町の「にじいろ診療所」の診療所長を務める医師、萩原博嗣さん(71)が、南極海で調査捕鯨船の船医として約4カ月乗船した旅の記録「南極海調査捕鯨航海記」(芸文堂)を出版した。船に乗ることになった経緯や最後の調査捕鯨となった航海の様子などを、その時々の感想を交えながら紹介している。
 萩原さんは、佐世保共済病院の医師として長年勤務し、定年退職をした2015年に海上保安大学校の航海練習船に臨時医務官(船医)として乗船。101日間の世界一周の航海を体験し、その旅の様子を記した「ドクトル太公望の世界周航記」(同社)を17年に出版した。
 その約1年後に、この本を見た捕鯨などを行う「共同船舶」(東京)から、「南極海で調査捕鯨をする船の船医になってくれないか」との依頼が飛び込んだ。萩原さんは再び“船乗り”となり、今度は南極海を旅することとなった。
 同調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づき、水産庁の委託を受けた日本鯨類研究所が1987年から実施。同社は同調査に船を貸し出す「用船」をしてきた。日本は2019年6月に同条約から脱退したため調査捕鯨も終わることになった。萩原さんは図らずも、約30年の長きに渡り南極海で行われてきた調査捕鯨の“最期”を見届けることになった。
 船医不在のまま出航した調査捕鯨母船「日新丸」(8145トン)に追いつくため18年12月、萩原さんは羽田空港を出発。ジャカルタでロシアのタンカーに乗り込み、日新丸を追い掛けるところから旅は始まる。ロシア人船員らとのやりとりや船内の様子に加え、日新丸に乗船してからの南極海や調査捕鯨の様子などが、躍動感のある文章で生き生きとつづられている。
 また、日本が調査捕鯨をすることになった歴史的経緯にも触れており、捕鯨を取り巻く日本と世界の情勢を分かりやすく解説している。萩原さんは「目の当たりにした捕鯨の実態などを率直に記した。捕鯨に興味を持ったり考えたりするきっかけにしてもらえれば」と話している。
 捕鯨に関する考察を含む八つの随筆も加え出版。B6変型判256ページ、1320円。佐世保市の金明堂書店などで販売している。問い合わせは芸文堂(電0956.31.5656)。


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