ミャンマーは国軍主導のクーデターが発生した2021年2月以降、軍の弾圧で1300人以上が死亡した。現地では沈静化の兆しもみえず、迫害を受ける恐れから日本に保護を求めたミャンマー人のうち、同年10月末までに15人が難民認定された。クーデター以前の過去5年間で認定されたミャンマー人がわずか1人だったことを考えれば大幅な増加と言える。ただ、21年3月末時点で難民認定手続き中のミャンマー人は約3千人に上る。
難民認定率が圧倒的に低く“難民受け入れ途上国”とも言える日本は、海外に比べて審査基準が厳しすぎるとの批判もある。専門家は、ミャンマー難民受け入れを契機に「従来の認定方針の見直しにつなげるべきだ」と指摘する。(共同通信=石嶋大裕)
▽3本指で抗議のサッカー選手はスピード認定
出入国在留管理庁によると、15人は、政府が日本への在留継続を望むミャンマー出身者に在留延長や就労を認めるなどの「緊急避難措置」を取ることを決定した5月末以降に認定された。いずれも「個別事情と情勢変化を踏まえた」判断という。
15人の詳細は明らかにされていないが、サッカー・ワールドカップ(W杯)予選でミャンマー代表として来日中、3本指を掲げて国軍に抗議し帰国を拒否したピエリヤンアウン選手が8月に認定されたことは判明している。難民申請の審査は、不服申し立てを含めて平均4年以上かかるとされる中、同選手は2カ月で認定された。代理人を務めた渡辺彰悟弁護士は「これだけ早く認められるのは異例」と喜ぶ。
一方で15人の難民認定については「圧倒的に少ない」との見解だ。渡辺弁護士は現在、約170人のミャンマー人の申請手続きを扱っているが、審査は滞っている。「難民該当性が高い人ばかりなのに、迫害の恐れが明白な少数民族ですら認定されない。早く認めてほしい」
▽認定率は1%未満、移民に対して消極姿勢
入管庁側は「迅速かつ適切に審査している」と主張している。ただ、ミャンマー人に限らず、日本の難民認定率の低さは批判の的となってきた。
認定率が低いのは、審査基準が厳しく設定されているためだ。たとえば、迫害の恐れを訴えている場合、抗議活動を理由に申請者に「本国政府から逮捕状が出ているか」などと明白な証拠提出を求められる。
NPO法人「難民支援協会」が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や法務省の資料をまとめたデータによると、20年の日本の認定数は全国籍で計47人。申請数に対する認定率は0・5%だ。ドイツの41・7%やフランスの14・6%、米国の25・7%と比較すると低さが際立っている。背景には、移民受け入れに消極的な日本政府の立場がある。
協会の伏見和子さんはミャンマー人の認定増加を機に、こうした状況が改善されることを期待している。「政情不安はミャンマーに限らない。アフガニスタンなどもある。他の国からの難民の認定も増やしてほしい」と話す。
▽「保護はより必要になる」
ミャンマー人の難民認定数は、ある程度多い時も過去にはあった。反政府デモ「サフラン革命」が起きた07年の翌年には過去最多の54人が難民認定。ミャンマー政治を研究する京都大の中西嘉宏准教授は、サフラン革命より、今年2月のクーデターの影響の方が大きいと指摘する。「SNSが活用され抗議運動の規模も大きい。現地での市民弾圧が常態化すれば、日本政府による保護がより求められるだろう」
国軍による弾圧はやむ気配がない。21年12月には反国軍デモ参加者の列に国軍車両が突っ込み5人が死亡したほか、同国北部の村で国軍が住民11人を殺害したと報じられている。
国士舘大の鈴木江理子教授(移民政策)は、日本政府の難民認定基準について、ミャンマーやアフガンのように情勢が極度に悪化していても「本国政府から『個別』に狙われていなければ、難民ではないという基準にこだわってきた」と説明する。
ミャンマーでは多くの場合、特定の個人が狙われているのではなく、軍に反対しているとみなされれば誰もが弾圧を受けると指摘した上で「緊急避難措置を取り、ミャンマー人の難民認定を加速させている今こそ、従来の基準を見直す必要がある」と訴えた。その上で「国軍に反対している」「タリバンに異を唱えている」などの“属性”を迫害の恐れのある理由として判断ができるように柔軟化すべきだとの見方を示している。