J・フロント、百貨店で図書館・水族館 好本社長「商業施設の余剰面積、業界全体の課題」 単独インタビュー(後編)

―パルコと百貨店を隣接させた営業形態が増えている

 大丸だけ、松坂屋だけ、パルコだけ、というスタンドアローンの店舗や、それぞれ店舗が離れている出店地もたくさんある。ただ、日本中の大型商業施設に言える課題だが、みな余剰面積を持っている。施設の棲み分けができれば良いが、これを全部の百貨店でやることは難しい。2015年ぐらいまでは8万、9万平米ある百貨店がいくつもあった。例えば、今の名古屋松坂屋は、松坂屋だけで8万7千平米。建物は3つある。さらにパルコで建物を4つ持っている。過剰であることは間違いない。これは我々だけの問題ではない。他社も同様だ。

―面積を減らすのか

 例えば、北館をパルコにしたため、心斎橋の大丸は1館となったが、それほど売上は変わっていない。逆に、施設を筋肉質にすることで、もっと効率よく使えるようになった。我々は長いこと商業デベロッパーとしてしかやれてこなかったが、上野(東京)の南館でオフィスをやってみたり、(余剰面積を)非商業の部分にもっていったら、今よりもっと施設は効率的に使える。

Jフロント好本社長後編

インタビューに応じる好本社長

―具体例は

 須磨の大丸は一部を図書館にしているし、松坂屋の静岡店には2022年に水族館をオープンする。これまで足を運ばれることのなかったまったく新しいお客様を呼べる。当然、コストも掛かるので、我々もコストダウンしないといけないが、絶対にやらなくてはならない覚悟だ。

―今年10月、ショールーム型店舗「明日見世」を大丸東京店にオープンした

 施設から出ていく洋服のブランドは、時代とともに増えていくだろう。今までだったら「洋服のお店があった場所は、洋服のお店で埋める、または雑貨系で埋める」と考えてきた。だが、なかなかそれだけでは事欠かなくなっている。  お金も広さもあり、大きく見直すなら、水族館や図書館などでガラっと変えるのも手だ。ただ、今回の大丸東京店のテナントは広さが30坪程度。そこで、4階ではあるが、東京のど真ん中の東京駅の真上で、エスカレーター横で往来も多い地の利を生かして、「リアルの売り場で店頭の声をとりませんか?」とD2C企業へ声掛けをした。我々の持つ小売のノウハウも生かして、当社で従業員も配置している。ただ、「そこでお客様に興味を持ってもらったら、御社のQRコードでご紹介しますからネットで売ってください」と。こういう取り組みは、百貨店で売上を立てると逆にビジネスモデルが混乱する。

―地方のみならず、最近では都心の商業ビルでも空きテナントがある

 余剰面積という考え方は、ここのところ顕著だ。そもそも、世界中で13階や14階まで商業をやるビルは、そうそうない。せいぜい6階程度。ファッションビルも、今は高い店舗はなくなってきている。

―売り場の必要性が問われている

 今後はネットで買う方向にどんどん流れていく商品と、リアルな店舗を起点に買う部分と分かれるだろう。絶対片方には寄り切らない。日用品、普段使いのものは、ネットに寄っていくし、ラグジュアリーなブランド品や、カウンセリングを要する化粧品は百貨店に残っていく。時計やアートなども百貨店に残る。化粧品は、同じ商品のリピーターはネットに行く可能性がある。

-コロナ禍が続く来年の消費動向は。百貨店を取り巻く環境はどう変わるのか

 いくつかのポイントに絞られる。決算発表などでもはっきりと言ってきたが、アプリとカード。これまでの百貨店の固定客戦略の要はカードだった。ここにきて、プラスチックのカードの位置づけが下がってきた。クレジットカードも楽天などの新興勢力に流れていって、旧来からのメジャーブランドでも、今はしんどい状況。一時期はカードのシェアが売上の7割の時もあった。むしろ百貨店はキャッシュレスが進んでいたと言える。それが自社カードのユーザーが次第に減ってきた。一方で、アプリを通じた売上が直近の1年間で、全体の40%ぐらいまで成長している。

―アプリユーザー数自体が伸びている

 他社より遅く2019年8月に開始した。ただ、他社が数十万程度のところ、我々はアクティブユーザー数を110万まで伸ばした。今もどんどんユーザー数は伸びている。

―伸びている理由は

 コンテンツを利用者目線に立って、改善を重ねた。ユーザビリティーが何より大事だからだ。我々は2~3年、アプリのスタートで他社から遅れをとった。ただ、業界内で主流だった「ホームページを小さくしたようなアプリ」だと、お客様に一方的にしか伝わらない。営業時間など基本情報を確かめるには良いが、そのお客様に合った商品やイベントをプッシュしなければ意味がない。これを他社に先駆けて取り組んだ。

―他には

 売場単位でのお客様への声がけも大きい。元々、当社としては店頭で勧誘することには抵抗がなかった。各テナントについては、雇用関係があるわけではないが、百貨店のアプリを通じて販促すれば、大丸松坂屋の販促にも乗れるし、外商を使うことで自社商品をアピールすることもできる。「自分のところだけで販促するより良いな」と。多くの取引先にも、アプリの導入・促進はメリットと感じてもらっている。

―従来の取り組みもアプリにシフトするのか

 単純にカードからアプリに置き換わっているのではなく、「両方もっている」人が増えている。ポイントだけを付与することのできるアプリと、カードでは役割が違う。カードも、もう紙の請求書は送らない時代だ。今はカードだけでは、お客様との接点にならない状況だ。一方でアプリは、お客様の側から百貨店に24時間アクセスいただくことも可能で、仮説をもってアプローチすることができる。かつては、イベントやフェアのお知らせを紙のDMを使ってやっていたが、もう時代じゃない。
 カード決済と合わせて利用いただくことで、ポイントだけではなく、多様な利点を感じてもらう。外商の面でも活用できる。クローズの外商お客様専用のサイトがあるが、これもポイントとの連携によって、お客様の求めるアイテムやカテゴリーを強化できる。外商の係がお客様の家に車で行く時代でもなくなっている。だから、外商の中でも一部のお客様にはタブレット端末を渡して対応している。高齢の方も多いので役立っている。

―デジタルと実店舗のバランスは

 デジタルには間違いなく流れていくと思うが、EC比率ばかりを求めていくと、我々の場合は厳しい。化粧品は、別在庫を持って(デジタルでも)やろうとはしているが。百貨店の魅力はやはり「人」。店頭然り、外商然り。人を介した「ヒューマンメディア」を目指していく。我々は従業員が同業他社に比べて少ないけれども、デジタルとリアルをうまく組み合わせることで、魅力あるものにしていかないといけない。

 百貨店やファッションビルは、昨春の一斉休業をはじめ、新型コロナ感染拡大の影響を大きく受けた業界の代表格だ。オーバーストアや若い世代の顧客掘り起こしなど、課題が山積する中でのコロナ禍だった。好本社長は、「当初決まっていた予定を先延ばしにするなど厳しい環境だった」とこの2年弱を振り返る。
 ただ、Jフロントは他社に先駆けて不採算店のスクラップを始めとした店舗網の見直しを、コロナ前に実施していた。好本社長は先行きをシビアに見通しながらも「国や行政からも、消費活動を後押しする前向きな声が増えてきた」と期待をのぞかせる。
 かつてのクレジットカードシェア争奪戦は、アプリにフィールドが移り、各社の顧客獲得競争が過熱している。今後、ますます激しさを増しそうだが、「お客様に合った内容をもっとプッシュしていく」と力を込める。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年11月21日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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