<社説>赤木さん訴訟 卑劣な幕引き許されない

 「ふざけるな」という妻の悲痛な叫びは国には届かないのか。 森友学園問題に関する決裁文書改ざんを命じられ自殺した財務省近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの妻雅子さんが起こした訴訟は、国が請求棄却を求める主張を突然撤回して賠償請求を全面的に受け入れ(認諾)、終結した。

 雅子さんは口頭弁論で「夫が自ら命を絶った原因と経緯を明らかにすること」が裁判の最大の目的だと陳述していた。だが突然の「認諾」によって、裁判で経緯を明らかにする機会が失われた。「不都合な事実」を隠蔽(いんぺい)する卑劣な幕引きは許されない。

 岸田文雄首相は16日の参院予算委員会で、改ざん問題などに真摯(しんし)に向き合っていくと語った。それなら、誰が何の目的で指示をしたのか。改ざんの過程を再調査し、問題点を明らかにすべきだ。

 なぜなら公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」(公文書管理法)だからである。改ざんは民主主義の根幹を揺るがす。

 そもそも、森友学園の国有地売却問題を巡り、国会で安倍晋三元首相の妻昭恵氏の関与が取りざたされた。安倍元首相は国会で森友問題に自分や妻が関係していた場合は「首相も国会議員も辞める」と明言した。この答弁をきっかけに文書改ざんが始まったとされる。

 ところが、国は改ざんの全容解明に後ろ向きだった。麻生太郎前財務相は、2018年に実施した調査のやり直しを否定し、改ざんの過程をまとめた「赤木ファイル」の存否も「探索中」としていた。だが、裁判所に提出を促されためようやく存在を認め、財務省本省が近畿財務局に再三メールで修正を指示していた記載内容が今年6月に判明。組織的な改ざんの実態が浮かび上がっていた。

 認諾とは、民事訴訟法で確定判決と同一の効力があるとされる。和解と違い双方が同意しなくても訴訟は終了する。雅子さん側は、認諾を防ぐために高額な賠償請求額を設定して提訴したというが、国の突然の認諾で一方的に訴訟を打ち切られた。

 認諾は「不都合な事実」にふたをする国の常套(じょうとう)手段である。厚生労働省の局長だった村木厚子さんが巻き込まれたえん罪事件で、村木さん側は国家賠償訴訟(10年)を起こして事件の真相を究明しようとした。だが、国は今回同様に認諾をして真相解明はされなかった。日米合同委員会の議事録公開を巡る国家賠償訴訟(19年)でも国は認諾した。

 では今回はなぜ認諾に踏み切ったのか。参院選を来夏に控え、世論の批判を浴びているこの問題を早期終結させたいと思惑があると指摘されている。国が支払う損害賠償額は約1億円。国民の税金である。税金を使ってもみ消しを図るとしたら言語道断だ。岸田首相は、真相を究明する責任を果たすべきだ。

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