「稼ぎたくないのか、お前」 楽天一筋15年…“鉄腕”の人生を変えた星野監督の言葉

2020年まで楽天でプレーした青山浩二さん【写真:荒川祐史】

青山さんは楽天アカデミーコーチに就任、工夫を凝らして子どもたちを指導する

楽天一筋15年。通算625試合に登板した青山浩二さんは昨シーズン、ユニホームを脱いだ。現在は、子どもたちに野球を教える「楽天イーグルスベースボールアカデミー」のコーチを務めている。指導者の道を歩み始めた青山さんには「人生が変わった」と振り返る指導者との出会いと言葉がある。「稼ぎたくないのか、お前」。星野仙一監督からの一言だった。【間淳】

1点も許されない場面でも、連投が続いても、いつも涼しい顔でマウンドに立っていた。引退から1年。青山浩二さんは今、子どもたちに囲まれ、柔らかい表情で野球を楽しんでいる。

「東北で暮らすのは大学を合わせると20年目になります。特に仙台には15年になるので、楽天で仕事ができたら自分の強みが生かせると思いました。アカデミーコーチの話をいただいて、迷いなくやってみようと思いました」

2005年に八戸大からドラフト3位で楽天に入団した青山さんは15年間、楽天一筋だった。プロ1年目から42試合に登板し、現役最終年となった2020年まで毎年2桁試合に登板。シーズン50試合以上は7シーズンを数える鉄腕だった。

プロの第一線で先発、中継ぎ、抑えを全て務めた青山さんは、投手に関する経験や知識に不足はない。ただ、アカデミーコーチはポジション別には子どもたちを指導しないため、守備や打撃など全てを担当する。DH制のパ・リーグでは打席に立つ機会は少なく、青山さんがプロでバッターボックスに入ったのは2回だけ。結果は、犠打と三振だった。小学3年生で野球を始めてから、ほとんど投手一筋。それでも、トレーニングメニューの狙いを理解して、子どもたちにも分かる言葉で伝えようと努めている。

スクールに通う子どもたちは園児から中学生まで幅広い。長時間集中するのが難しい年代に対しては、話し方を工夫している。「立ったまま話すより目線を合わせての方が話を聞いてもらえますし、太陽の向きでまぶしくないように立つ位置も変えています。目の前で何か動いていると、子どもたちの集中が動いているものの方へ向いてしまうので、目線に何も入らないようなところで話すようにもしています。自分よりアカデミーコーチの経験が長い人を参考にしながら、子どもたちに質問されたら答えられるような知識をストックしています」。現役時代に打者のクセや狙い球を観察したように、子どもたちの動きを注意深く見ている。

抑えに抜擢してくれた星野仙一監督に感謝「稼がせてもらいました」

練習内容にも、ひと工夫。キャッチボールでは短い距離で20秒間に何回ボールを捕れるか競わせるなど、ゲーム性を取り入れている。単調な練習に楽しみを加え「ダラダラしないようにメリハリをつけるようにしています」と話す。

第2の人生で指導者の道を歩み始めた青山さん。現役時代を「分岐点で色々な監督やコーチにお世話になりました」と振り返る。中でも「人生が変わった」と力を込めるのは、2011年からチームを指揮した星野仙一さんとの出会い。当時、主に先発と中継ぎをしていた青山さんは「抑えをやってみないか」と打診された。先発へのこだわりがあったため少しためらっていると、星野さんから「稼ぎたくないのか、お前」と期待を込めた一言。青山さんは「稼ぎたいです」と答え、守護神への覚悟を決めた。

抑え投手は、たった1球の失投で、それまでの試合を壊す可能性がある。最後を任される重圧は想像以上だった。だからこそ、セーブを挙げた時の達成感も格別だった。「こんなに苦しいのかと思いましたが、試合を締めた時には先発で完投した時のような高揚感がありました」。青山さんは2012年、61試合に登板して5勝4敗22セーブ、防御率2.51と指揮官の期待に応えた。

抑えの経験は中継ぎでも活かされ、2015年には35ホールドポイントをマーク。2018年は52試合で防御率1.85と長年に渡って安定した成績を残した。「プロ野球選手になって満足しているところがあったので、そこに刺激を与えてもらいました。抑えを経験して、こんなにも野球は大変なんだと、自分の甘さを考え直しました。不安定な投球をしている時も任せてもらえて意気に感じてマウンドに立っていました」。青山さんは星野さんに感謝し「稼がせてもらいました」と笑った。

指導者との出会いは、時に大きな転機となる。青山さんはユニホームを脱いでから、その重みを一層強く感じている。「スクールで教えている子どもたちが甲子園に出場したり、プロになったりしたらうれしいですね。目標や夢を持っている子どもたちを応援できる存在でいることが、今の1番の目標です」。選手からアカデミーコーチへ立場が変わっても、出会いを大切にする思いは変わっていない。(間淳 / Jun Aida)

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