「負の連鎖」を断つ 寄り添う土台を刑務所で 第1部 老いと懲役・7

刑務官(左)に付き添われ、1カ月ほど早く出所した山口=諫早市小川町、長崎刑務所

 8月上旬の朝。降り続いていた雨がやみ、晴れ間がのぞいた。長崎刑務所(長崎県諫早市)に収容されている山口幸三(仮名、83)は仮釈放が決まり、満期より1カ月ほど早く出所の日を迎えた。
 両手に荷物を抱えた山口が刑務官に付き添われ、正門に向かって歩いてくる。
「社会に戻っても頑張れよ」。男性刑務官の言葉に山口は黙ってうなずいた。
 「抗原検査は陰性でした」。社会福祉士の北田里香(仮名、42)が書類が入った封筒を、迎えに来た県地域生活定着支援センターの清水敬太(28)に手渡した。新型コロナウイルスの感染拡大は所内にも及び、刑務官と受刑者の感染が確認されていた。マスク着用や検温、手指消毒などは所内でも習慣化されている。
 コロナ禍で一変した社会に山口は帰って行く。「壁にぶち当たると悪い部分が出てくる恐れがある。特にコロナで、なかなか想像がつかない。迎えに来てくれる定着の存在はありがたい」と北田は言った。山口は清水らと車に乗り込み、3年近く過ごした長崎刑務所を後にした。
 「もう刑務所には入りたくなかです」。更生保護施設に着いて、山口は社会に戻った心境をこう漏らした。
 長崎刑務所に社会復帰支援部門ができた目的は、生きづらさを抱えて罪を繰り返す「負の連鎖」を断ち切ることだ。
 頼る人がいない高齢の受刑者は、出所後に帰る場所や働き口を探すのは簡単ではない。刑務官からは「『こないだ出たばかりとに』という人もいる」と聞いた。全国の統計では出所後5年以内に再び刑務所に入所した高齢者のうち、約4割が出所後6カ月未満という極めて短い期間で再び罪を犯している。
 再犯を防ぐことを目的にした再犯防止推進法が2016年にでき、自治体が施策を実施する責務が明文化された。逆に言えば、これまで自治体の関わりは乏しく、刑務所が地域の中で孤立していたとも言える。
 長崎に新たな部門ができたのは、罪を繰り返す「累犯障害者」の支援に先駆的に取り組む社会福祉法人南高愛隣会(諫早市)の存在が大きい。一方で出所者の受け入れに地域の反対を心配する施設も少なくない。
 「私たちは新たな被害者を生まないためにどうすればいいかという視点から取り組んでいる。寄り添って支援していく土台を刑務所にいる間に形作って、同じような罪を犯さないようにしていく。受け入れ先など外部の人に知ってもらうことは今後の課題です」。首席矯正処遇官の大園雄介(44)は塀の外に視線を向けた。(敬称略)


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