迫るISS退役!? 次世代宇宙ステーション運用開始までの時間差が引き起こす問題

【▲国際宇宙ステーションの外観。2021年11月撮影(Credit: NASA)】

1998年11月に建設が始まってから20年以上に渡って運用されてきた国際宇宙ステーション(ISS)は、「退役」のタイムリミットに年々近づいています。そんななか、次世代商用宇宙ステーションの計画を進めている米国航空宇宙局(NASA)が、大きな問題に突き当たっています。

NASA監察総監室(以下、OIG: Office of Inspector General)は11月30日に発表した「NASAによる、ISSおよび地球低軌道(LEO)の商用化への取り組みに関するマネジメント」という報告書のなかで、ISSの退役から次世代商用宇宙ステーションの運用開始までの時間差が宇宙開発に重大な危機をもたらす可能性があると指摘しています。

運用延長が見込まれるISSだが......

高度約400kmを飛行するISSは1998年11月に基本機能モジュール「ザーリャ」が打ち上げられて以来、微小重力環境での実験機会宇宙飛行士の居住空間を提供してきました。ISSは2024年まで運用されることが承認されているものの、運用終了のタイミングはおそらく2030年まで延期されるだろうと見込まれています。

一方で、長年運用されてきたISSへのダメージが、運用スケジュールに影響を及ぼす可能性がOIGの報告書内で指摘されています。たとえば2021年5月には、ISSに搭載されたロボットアーム「カナダアーム2」の表面に、宇宙ゴミ(スペースデブリ)あるいは微小隕石が衝突してできたとみられる穴の存在が確認されました。

【▲ISSに搭載されたロボットアーム「カナダアーム2」に生じた穴。宇宙ゴミか微小隕石が衝突したとみられている。(Credit: Canadian Space Agency)】

また、同年7月にロシアの新しい多目的実験モジュール「ナウカ」をドッキングさせた際には、ナウカのスラスターが誤って噴射されたために姿勢制御が一時不能な状態に陥っています。同年10月にはISSにドッキングしていたロシアの有人宇宙船「ソユーズMS-18」のスラスター噴射テストを実施した時にも、同様のインシデントが発生しました。

さらに、NASAやロシアの宇宙機関ロスコスモスは、ISSのサービスモジュール「ズヴェズダ」後部の転送チャンバで発見されたヒビや空気漏れの影響を調査し、退役スケジュールを早める可能性を示唆しました。最悪の場合、ISSで現在遂行中のプロジェクトを中断しなければならない可能性すらあるといいます。

【▲ISSの構造を示した簡略図。左端に位置する転送トンネル(Transfer Tunnel)でヒビや穴が確認された。(Credit: NASA)】

ISSの老朽化が退役のタイムリミットを早める可能性も

ISSでは現在、ガンや心血管、精神状態などがヒトの健康状態に及ぼす影響や、環境制御・生命維持システム(ECLSS)が長期間宇宙空間に晒されるとどのような影響を与えるかを確認するために、微小重力下で実験が行われています。OIGの報告書では、こうした実験なくして月や火星への飛行や滞在は実行不可能だと述べられていますが、実験は2030年までに完遂しないといいます。

目下のところ、NASAが計画する商用宇宙ステーションは2028年までに運用開始の予定です。ISSが2030年まで運用されれば約2年の重複期間があるものの、前述のようにISSは老朽化により退役時期が早まる可能性があるとされています。

【▲ISSの退役スケジュールを示すグラフ(Credit: NASA)】

不透明な商用宇宙ステーション建設計画

また、OIGの報告書では新しい商用宇宙ステーションの開発用に割り当てられた予算の問題を懸念しています。NASAは「商用地球低軌道開発」(CLD)プログラムで地球低軌道(LEO)の経済活動を支援するため、ブルー・オリジン社など民間企業とともに商用宇宙ステーションを建設する予定ですが、NASAの予算要求に対し、連邦議会が決定した予算割当は大きく下回っているのが現状だといいます。同報告書は、NASAによる予算の見積もりは「信頼するに足りない(unreliable)」として、商用宇宙ステーション開始までの計画の甘さを指摘しています。

同報告書は、ISSの退役時期が繰り上げられたり商用宇宙ステーションの運用開始が遅れたりして時間差が生じた場合、地球外で将来遂行されるであろうミッションに対するリスクが高まり、LEOでの経済活動そのものが崩壊するかもしれないと警鐘を鳴らしています。

【▲NASAが見積もったISSへの予算要求額(水色)と連邦議会による実際の予算割当額(赤色)(Credit: OIG presentation of NASA information)】

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Image Credit: Canadian Space Agency
Source: SpaceNews, NASA OIG
文/Misato Kadono

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