手書きの年賀状

 〈人情、紙のごとし〉とは思いやりを忘れた、せちがらい世の中を嘆く文句だが、紙に思いがこもる時もある。筆者にとっては読者の方々から届く手紙がそうで、この欄や紙面への感想を丁寧に書いてくださる。励ましも厳しいご意見もある▲つい遅れがちだが、なるべく返事を書く。気持ちを添えて手書きするのは、思えばその返事と年賀状くらいかもしれない。今年も残すところ10日。寅(とら)の絵柄のそばに、ペンでせっせと文を書き添えている最中の人も多いだろう▲そんな“歳末行事”も以前ほど盛んではない。一人当たりの年賀状の枚数は今年が14.5枚で、最も多かった2003年の35枚の半分にも満たない▲新年のあいさつならメールの類いでいいし、近年は勤め先の上司、同僚、後輩で賀状のやりとりを控える向きも強い。これも時代の流れというほかない▲それでも手書きのよさは捨てがたくもある。温かさに限らない。文を添えながら、その人と出会った昔をふと顧みて、懐かしむ時がある。ペンを止め、ほんのしばらく「時間の旅」をするのもこの時期だろう▲世論調査によれば、年末年始の帰省や旅行を予定していない人は75%に上る。里帰りの代わりに、年賀状に家族写真をプリントして実家に送る人もおそらく多い。年賀状はプレゼントにもなる。(徹)

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