第12回「ブルース」〜療養中のPANTAが回顧する青春備忘録〜

PANTA(頭脳警察)乱破者控『青春無頼帖』

ローリング・ストーンズが「ブラウン・シュガー」をツアーで披露しないと宣言したことを筆頭に、性的暴行を告発されたR.ケリーと過去にコラボしたことを謝罪したレディー・ガガなど、海外のアーティストが過去の自分たちを断罪している。いまロック・ミュージック界隈ではそんな大事件が起きている。日本でもストーンズ・ファンや、ブルース、R&Rマニアにとって対岸の火事ではあるまいに、何の声も聞こえてこない。これが日本の現実か。何歌ってるかなんて歌詞なんか知らねえし、アメリカの差別問題なんて関係ないもんな。楽しくなけりゃロックじゃないもんな。イエーイしか言えないロックンロール(笑)。…そんなことを皮肉たっぷりにFacebookに書かせてもらった。 小学生のときにエルヴィスに夢中になり、1964年14歳でビートルズと出会い、世の流れとともにストーンズ、アニマルズ、スペンサー・デイヴィス・グループ、スモール・フェイセスと黒っぽいブルー・アイド・ソウルに流れ、オーティスや、サム・クック、3キングとも出会った。当然、そうなればブルースと出会うのは必然だっただろう。そして出会うべくして、ジョン・リー・フッカー、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズらと出会うことになるのだが、音楽をやりたい自分と、いやでも知ることとなる黒人奴隷たちの歴史と向かい合わざるを得ない現実とどうしてもぶつかる。白人にわからないように歌詞をはっきり歌わない、それを模して唄うミック・ジャガーのこれまた子どもじみた真似をして唄う日本に何人もいるミック・マニア。 大好きなブラック・ミュージック、しかしそんなアメリカの、いや黒人たちの暗黒の歴史を知りもしない極東のケツの青いクソガキが歌って喜んでどうする? ブルースを歌いたい、いや歌っちゃダメでしょ、唄うなら真似ではなく、自分の言葉で、そのブルースの深み、そして暗黒史を歌うべきでしょと、悔しいけれど、ブルースを捨てることに決めた。泣きたいくらいに大好きなブルースを、18歳のときだった。そしてその1年後に作る頭脳警察では楽曲も含めて黒っぽいセンスさえも一切禁止としてしまった。自慢げに黒っぽく歌い人気を博しているシンガーなどを横目に、悔しいけど、それで良かったと思っている。 そして1975年、初期の頭脳警察解散を機に、そのブラック禁止条例は解け、ソロ・アルバム『PANTAX'S WORLD』で溜まりに溜まったプラック・ミュージックへの憧れが爆発することになるのだった。

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