天の川銀河の外縁部で予想外の発見、多数のフィラメント状構造が見つかる

【▲宇宙望遠鏡「ガイア」による観測データ「EDR3」をもとに作成された全天画像(Credit: ESA/Gaia/DPAC)】

東京大学国際高等研究所・カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のChervin Laporte(シェルヴィン・ラポルテ)さん(※)を筆頭とする研究グループは、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の観測データを分析した結果、天の川銀河の外縁部にこれまで知られていなかったフィラメント状構造が多数見つかったとする研究成果を発表しました。

研究グループによると、このようなフィラメント状構造は過去に天の川銀河と別の銀河が衝突・合体したことで形成されたとみられていますが、今回見つかったような数多くのフィラメント状構造の存在は予想外だったとされており、今後の詳細な観測と分析が待たれます。

※…現在はバルセロナ大学宇宙科学研究所(ICCUB-IEEC)研究員

■天の川銀河の外縁部に複数のフィラメント状構造が存在していた

私たちが住む天の川銀河は孤独に存在しているのではなく、複数の矮小銀河(衛星銀河)に囲まれています。発表によれば、天の川銀河の周辺には知られているものだけでも約50個の衛星銀河があり、このような衛星銀河と合体を繰り返すことで天の川銀河は成長してきたと考えられています。

たとえば、天の川銀河は今から約90億年前に「ガイア・エンケラドス・ソーセージ」(Gaia-Enceladus-Sausage)と呼ばれる銀河(ガイア・エンケラドス、ガイア・ソーセージ、ガイア・ソーセージ・エンケラドスとも)と合体したとみられていますし、その後の時代には「いて座矮小銀河」(いて座矮小楕円銀河)と衝突したことでその影響を受けたと考えられています。

こうした過去の衝突を物語る痕跡は、衛星銀河が合体した後も残されていると研究者は考えています。発表によると、天の川銀河の外縁部には恒星が細長く分布したフィラメント状の構造が存在していますが、これは過去に天の川銀河と衛星銀河が相互作用した際に潮汐力によって形成された「潮汐腕(潮汐尾)」と呼ばれる構造の痕跡ではないかと考えられています。

研究グループによると、これまでの研究では太陽系から見て天の川銀河の中心とは反対方向にある「Anticenter Stream」と呼ばれるフィラメント状構造に約80億年以上前に形成された星が多く含まれていることが判明しており、その起源はガイア・エンケラドス・ソーセージとの衝突にあると考えられているといいます。ただ、フィラメント状構造のすべてが潮汐腕の痕跡とは限らず、天の川銀河の内的要因(円盤部における垂直方向の密度波)によって形成される可能性もあるといいます。

そこで研究グループは、2020年12月に公開されたガイアの最新観測データ「Gaia EDR3(Early Data Release 3)」を使用し、これまでは塵による減光の影響を受けるためにほとんど調べられていなかったという天の川銀河の外縁部における恒星の3次元分布を調べました。

ガイアは天体の位置や運動について調べるアストロメトリ(位置天文学)に特化した宇宙望遠鏡で、2013年の打ち上げ以降、太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」で観測を行っています。過去にガイア・エンケラドス・ソーセージなどの銀河と衝突や合体を繰り返してきたとされる天の川銀河の歴史も、これまでに公開されたガイアの観測データを用いることで明らかにされてきました。

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研究グループによる解析の結果、今まで知られていなかったというフィラメント状構造が天の川銀河の外縁部で多数見つかりました。冒頭でも触れた通り、膨大な数のフィラメント状構造が存在するのは予想外のこととされています。

研究グループはフィラメント状構造の解明に向けた調査を開始している他に、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」で2023年の本格稼働開始を目指し準備が進められている観測装置「超広視野多天体分光器(PFS:Prime Focus Spectrograph)」を用いた観測を行うことで、フィラメント状構造に含まれる恒星の起源や構造の成り立ちを明らかにしていく予定とのことです。

【▲ガイアの観測データ「EDR3」をもとに、特異な運動量を示す星の分布とバックラウンド (一様成分) の星の分布の比をとった地図。画像の中心は天の川銀河の中心とは反対方向にあたる。画像の中心から下に伸びているのは過去に「いて座矮小銀河」から引き剥がされた星の分布で、これとは別に天の川銀河の円盤面に沿って画像の左右方向に伸びるフィラメント状構造が多数みられる(Credit: Laporte et al.)】

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Image Credit: Laporte et al.
Source: Kavli IPMU
文/松村武宏

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