「弱いヤツはいらない」。新たな相棒が緒戦で見せた“ファイティングポーズ”に惚れた関口雄飛【2021スーパーGT総集編】

 2021年のスーパーGT最終戦、大逆転によりGT500クラスのタイトルを獲得したau TOM’S GR Supraの関口雄飛と坪井翔。ともに初となるスーパーGTのタイトルを手にした数日後、ふたりに改めて2021シーズンの戦いを振り返ってもらった。

■胸を叩くジェスチャーに込めた想い

──GT500シリーズタイトル獲得、おめでとうございます。実感は湧いてきましたか?関口:お祝いしていただいたり、贈り物やお花をたくさんいただいたりといったことで、じわじわと実感し始めている最中です。

坪井:僕も一緒です。最初は優勝できてうれしいという気持ちが強かった。目に見えるかたちで感じることができなかったので、チャンピオンになったということが分からなかったのですが、多くの方々からメッセージをいただいたりして、獲ったんだなぁっていうのをひしひしと感じているところです。

──坪井選手にとっては、GT500の初優勝でもあり、初のタイトル獲得でもありました。坪井:これ以上にない経験ですよね。できればひとつずつ獲れたほうが2回喜べたかなって(笑)。一気に来ちゃったので、いまひとつピンと来ていないというのも本音です。

──最終戦富士、第1スティントを終えてマシンを降りた関口選手がピット内に戻った後、マシンの前に戻ってきて、ドンドンドンッと胸を叩くジェスチャーを車内の坪井選手に送っていたのが非常に印象的でした。関口:あのとき、もちろんチャンピオンは狙っていたけどポイント差があったので、やっぱり何かが起きないと難しかった。それより、とにかく勝ちたかったので、気がついたらやっていました。「頼むぞ」って。声を出しても聞こえないから、カラダで伝えたんです。

──その思いは伝わりましたか?坪井:めちゃくちゃ伝わりました。「絶対に抜かれるなよ」ということだなって。何が何でも抑えなきゃと、気が一層引き締まりました。アウトラップは死ぬ気で走るしかないと。

関口:僕のスティント、序盤が結構ツラかったんです。中盤以降は、ほかのクルマに比べると36号車はタイヤのタレが少なかったんですが、最初は14号車に離されてしまっていました。だから、代わった直後はたぶんツラいだろうし、気持ちを助けてやんなきゃって思ったんです。ホントは無線で話したかったんですけど、そのぐらいの気持ちでした。

坪井:僕自身もすごく勝ちたかったし、その気持ちは受け継いでいたと思います。

■坪井から見た関口は「最初の印象とはまったく別」

GT500タイトルを獲得したau TOM’S GR Supraの関口雄飛

──今季、初めてチームメイトになりました。お互いのことは知っていましたか?関口:直接は知りませんでしたが、FIA-F4のときからもてぎで牧野(任祐)選手とやり合っているところなどは見ていました。2020年のスーパーフォーミュラで2勝して、トヨタ勢のなかでもランキング上位。すごく速いドライバーだなっていう認識はありましたが、それ以外はとくに。ふたりともインタープロトシリーズにも出ていて、そこで挨拶はするけど、そんなに話す機会もない。詳しくは知らないけど、速いっていう認識でした。

坪井:僕自身がいろいろ話すというタイプではないし、パドックでいろいろ出歩くタイプでもないので、チームメイトになるまで接点はありませんでした。トヨタの育成枠から上がってきているなかで、関口選手を含めて先輩方がGT500でレースしているのをFIA-F4のころからずっと見てきたので、そういう先輩方とチームメイトになることをうれしく思うと同時に、足を引っ張らないようにというプレッシャーを強く感じてもいました。

GT500タイトルを獲得したau TOM’S GR Supraの坪井翔

──実際に組んでみたらいかがでしたか?関口:最初の認識どおり速いっていうのと、結構強いレースをするというイメージですね。たとえば緊張してスタートを失敗したりズバズバと抜かれたりという脆い人も多いけど、そういうのはなかった。僕はそこをすごく求めるんです。弱いヤツは要らない。だって、頼れないじゃないですか。最終戦もそうでしたが、追い詰められている苦しい状況で、飛んでいっちゃったり抜かれちゃったりというドライバーだと頼れないですが、そこをすごく強く戦ってくれました。

坪井:レースでは場面によって出さなきゃいけない強さって絶対あると思うんです。関口選手に対しては、以前は少し怖いイメージもありましたが(笑)、実際はまったくそうではなく、相手にナメられてはいけないところですごく強さを出しているんだなって。一緒に戦うなかで分かってきました。そのなかにも優しさがあって後輩思い。面倒をよく見てくれて、気を使っていただいているので、最初の印象とはまったく別でした。

──開幕戦岡山では予想どおりに速さを見せました。第2スティントの坪井選手と山下健太選手のトップ争いは熾烈でした。坪井:後半はスピード差が結構あり、ペースも良かったんです。岡山は抜きづらいというのはありますが、もうちょっと大人であれば、もう少し我慢して(ということができたかも)……。抜きにいって飛び出したことは後悔していないんですが、もうちょっと待ってもよかったかなって。昂ぶりすぎて、アタマに血が上ってしまったかなというのは、終わってから思ったことではあります。でも、仕かけないと絶対に抜けない。ギリギリまでトライしてやろうっていう気持ちでした。結果的に抜けなかったけど、後悔はない。ただ、未熟な面が出ちゃったかなという感じですね。

14号車を抜きにいき、コースオフ。このあと、コースに復帰し2位でフィニッシュする

関口:あれはすごく良かった。様子を見ていたら、たぶん抜けなかったと思う。いまのGT500はダウンフォースがすごく増えているので、後ろにつくと自分のペースで走れなかったりする。それで5周、10周、20周と走っていくと、たとえば最初はコンマ5秒差だったところが、タイヤもいじめられることでギャップも落ち着いてきちゃう。タイヤもキツくなっていくし、チャンスがあるときにいかないとダメ。そこを逃さずにいったので、結構、好きになりました(笑)。

──ファイティングポーズを見せた、と。関口:そうじゃないとやっぱり嫌ですよ。多かれ少なかれ、他人に対する好き嫌いがあるのは仕方ありません。レーサーとして苦手なタイプとか、好きなタイプとか。あそこでいかないドライバーは、僕は苦手なタイプ。坪井選手は好きなタイプのドライバーです。

坪井:あのときは「抜いてやる」って思いながらいっていましたが、落ち着いて考えると、グラベルにハマっていたりしたら、大変なことになっていたなって。フラットスポットもできてしまい、ペースが上がらないなかだったので、2位でホントに良かったです。

※この記事は『2021-2022スーパーGT公式ガイドブック総集編(auto sport臨時増刊)』(2021年12月24日発売)内の企画からの一部抜粋・転載です。

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