“セクシーすぎる声”で話題「球団の電話が鳴りやまず」 伝説のウグイス嬢の今

アナウンススクールでウグイス嬢を育成する藤生恭子さん【写真:本人提供】

元オリックス球団職員の藤生恭子さん、動画をきっかけに話題の人に

球界で一躍、時の人となった。“セクシーな声を持つウグイス嬢”としてファンの間で語り継がれる藤生恭子さんは今、野球に特化したアナウンススクールを運営している。プロのウグイス嬢になる夢を叶えるまで、試行錯誤を繰り返した。自分のような経験をさせたくないと始めたスクールで、新たな目標へと進んでいる。【間淳】

【実際の映像】話題となった“セクシーすぎる”声を持つウグイス嬢のアナウンス

2010年のある日、日本を代表する投手とアイドルグループと並び話題になった。当時、オリックスの球団職員として球場のアナウンスを担当していた藤生さんは、朝起きてブログをチェックすると、心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。

「ブログのアクセス数が30万に達していていました。注目度を示すランキングで、ダルビッシュ有投手、AKB48に続いて私の名前が入っていたんです。ものすごい数のクレームが球団に来ているのではないかと、ドキドキしながら球場に行きました」

宮崎で行われていたフェニックス・リーグで球場アナウンスをしていた藤生さんは、上司に恐る恐る挨拶すると、思わぬ言葉が返ってきた。「私の声がニコニコ動画にアップされて、あの声は誰ですかという問い合わせで球団の電話が鳴りやまないと言われました」。声優ファンを中心に、藤生さんの声はじわじわと知名度を上げていった。そして、2012年にテレビで取り上げられると「セクシーすぎるウグイス嬢」として野球ファンへ一気に広がった。

「今年、オリックスは優勝して注目されましたが、関西では阪神の方が人気です。当時オリックスは集客に悩んでいたので、私のアナウンスが集客のコンテンツになればと思っていました。反響があった時は、役に立ててうれしかったです」

愛知から四国に通い“無給”でウグイス嬢修行…苦難の先に叶えた夢

2008年から5年間オリックスでアナウンスを担当した藤生さんだが、それまでの道のりは平たんではなかった。子どもの頃から大好きだった野球に携わる仕事を希望し、大学卒業後にスポーツ新聞社に入った。仕事自体に不満はなかったが、内勤だったため「直接、野球の現場に行きたい」との気持ちが強くなっていったという。そして24歳の時、プロ野球のウグイス嬢への夢を抱くようになった。

ただ、藤生さんにアナウンス経験はない。キャリアを積み重ねるために、あらゆる野球団体やチームに連絡し「ボランティアで球場アナウンスをやらせてほしい」とお願いした。愛知のラジオ局でパーソナリティをしながら球場で実戦経験を積み、25歳になった2005年に独立リーグ・四国アイランドリーグでウグイス嬢を務めることになった。交通費を自己負担し、ボランティアの立場で愛知から香川や高知まで通った。高知ファイティングドッグスの球団職員になる縁があり、夢が現実になる“音”が聞こえてきた。

「オリックスがキャンプで高知に来ていて、練習試合をしました。その時に後の上司になる方が私のアナウンスを隣で見ていて『NPBでアナウンスをやる気持ちはある?』と。それがやりたくて修行を積んでいますと答えて、プロ野球でアナウンスする夢が叶いました」

オリックスのウグイス嬢をしながら2008年にアナウンススクールを開いていた藤生さんは、2012年に球団を離れた。2013年に法人化し、スクールに専念。「アナウンスを学ぶ場はあっても、野球のアナウンスに特化した場所はありませんでした。私はボランティアで経験を積みながら希望の仕事につけましたが、しっかりと学ぶ場が必要だと思いました」。夢がかなったと同時に、課題を見つけていた。

一言に野球のアナウンスといっても、少年世代からプロまでカテゴリーによって声の出し方や伝え方が違うという。興行であるプロ野球ではホームチームを盛り上げ、学生野球は両チーム同じように選手の名前をコールする。甲子園は独特のリズムとアクセントがあり、聞いている人が違和感を抱かないようにコンマ1秒の間合いまで“完コピ”している。

話し方を通じた人材育成「メディアトレーニング講習」も開講

スクールには毎年、80人ほどが入ってくる。高校野球のマネジャーや少年野球の保護者らアナウンス技術を伸ばしたい人から、プロを目指す人まで様々だ。藤生さんは「それぞれの方の特徴を伸ばしていくのが、やりがいです。プロ野球のウグイス嬢になるのが全てではないので、それぞれの目標を達成できるようにサポートしています」とオリジナルの教科書を使って指導している。

もうひとつ、藤生さんは野球界の発展につながる事業も展開している。各世代だけでなく、野球以外の競技も含めた選手への「メディアトレーニング講習」。例えば、少年野球の子どもたちには練習を休む時の言葉遣いを伝える。

「『きょうは練習を休みます』ではなくて、目上の方には、こういう理由で練習を休ませていただけますかとお伺いを立てないと自分勝手な印象を与えます。話し方や礼儀は競技を離れても大切です。野球のイメージを変えられるとまでは思っていませんが、社会に出て活躍できるきっかけになればと思っています」

野球界を支えるアナウンス技術の指導と話し方を通じた人材育成。セクシーな声を持つウグイス嬢として成功した藤生さんは、新たな夢を描いている。

【実際の映像】話題となった“セクシーすぎる”声を持つウグイス嬢のアナウンス

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(間淳 / Jun Aida)

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