<北朝鮮内部>過激化する人民統制(2) 復活した「言葉狩り」の恐怖 たった一言の不満・反発で検挙や追放相次ぐ

(参考写真)住宅街で集まって話す女性たち。2013年8月に恵山市で撮影アジアプレス

北朝鮮で「マル反動」と呼ばれる「言葉狩り」復活の兆しが濃厚だ。「マル」とは言葉の意味。最高指導者や金一族に対する批判や揶揄だけでなく、生活苦や取り締まりに対する不満、幹部や政策に対する反発を口にしただけで摘発される事例が相次ぎ、住民たちを緊張させている。(カン・ジウォン/石丸次郎

「とうとう『言葉狩り』で処罰されるようになった。当局の取り締まりや暮らしのしんどさについて大っぴらに不満や批判を話したり、外国を羨ましがったり、流言飛語を広めた人が容赦なく引っ張られている。周囲の年寄りたちが、『世の中がまた逆方向に向かっている』と言うほどだ」

咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者が12月初旬、このように伝えてきた。

◆「マル反動」=言葉狩りとは?

この「言葉狩り」は、90年代前半まで北朝鮮で日常的な統制方法だった。金日成―金正日父子に対する批判や揶揄、韓国称賛はもちろん、社会主義に対する批判、外部情勢の流布、政策への反発、生活苦への不満なども摘発の対象だった。

だが、経済が破たん状態になって食糧配給制まで麻痺するにともない、庶民だけでなく幹部や取り締まる立場の保衛要員(秘密警察)や警察官の生活まで立ちいかなくなると、「言葉狩り」はうやむやになっていった。

以降最近まで、最高指導者の批判、韓国称賛など体制の根幹にかかわる問題を除いて、庶民が発言で強く処罰されることはまれになり、注意・指導程度に留まっていた。

◆生活困窮で不満、反発噴出していたが…

金正恩政権が2020年から過剰なコロナ防疫対策を実施したことで経済は一気に悪化した。住民たちが生活苦に喘ぐ中、当局は秩序維持を最優先にして、むしろ個人の経済活動を強く規制し、職場離脱や無許可の商行為、外貨使用を厳しく取り締まった。当然、不満が大きくなる。

「昨年までは、市場の周辺で商売をするお婆さんたちが取り締まりに反発して役人を罵ったり、住民が『幹部たちが悪いから食えない』『何の対策もない』などと批判を口にするのは珍しいことではなかった。路地の商売人の品物を役人が没収するようなことがあると、抗議する人に周囲が加勢して食って掛かるようなことも少なくなかった」

協力者はこのように言う。だが現在、そんな現象はほとんど見られなくなったという。

◆組織的に「言葉狩り」を宣告

「露骨に政策批判をするようなことが頻繁に起きたので、『言葉狩り』が9月から始まった。発言によっては収容所に送られるという話も出てくるくらいです」

複数の協力者によれば、12月初めに開かれた労働党傘下の女性組織や勤労団体、青年同盟、職場の会議で、「言葉狩り」の強化が次のように宣告された。

・政策を非難する言動は絶対に許さない。
・確認されていない内容を話したり、流言飛語を広める現象に対しても一切容赦しない。
・特に年配者と学生たちが外で変なことを言わないように指導せよ。

◆「韓国に行きたい」の一言で追放か

この協力者は最近、ショックを受けた事件があった。

「近隣の〇〇洞で、家に集まった知人たちの前、『暮らすのが本当に大変だから、韓国に行きたいものだ』と話したのが密告されて、後日保衛部に連れて行かれた。数日取り調べを受けたが、そのまま追放されることになるだろう」
※追放は刑事罰ではないが、都市から農村や辺鄙な山間地に強制移住させられる。

当局が神経を使っているのは、言うまでもなく生活が苦しくなる一方の住民の不平不満の抑え込みだ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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