ANAが見据えるコロナ後の航空業界、”第3ブランド”やピーチとの関係を聞く【ANAHD・片野坂社長インタビュー全文】

新型コロナウイルスの影響を大きく受けた航空業界。2期連続で巨額の赤字を計上する見通しのANAホールディングスでは、アフターコロナを見据えた取り組みを着実に進めている。

片野坂真哉社長に、来期の見通しや注目が集まる第3ブランドの航空会社、ANAとピーチの関係強化について、インタビューで話を伺った。(オミクロン株発見前の11月22日に実施した)

ー今期は赤字の見通しだが、今後需要の回復、来期の業績をどのように見通しているか。

なかなか難しい。今年度は1,000億の赤字という予想を立てている。しかし、来年度は黒字を見通している。

足元の需要は良いスタートを国内線が切った。1日あたりの利用者数は、9月が4万5,000人だった。10月は5万5,000人、11月が7万人程度、12月は8万人程度の勢い。2019年と比べると、旅客数ベースで10月が40%(実績)、11月が50%(見込み)、12月が60%(同)程度になる。

この飛び石連休(11月20日〜23日)は、金曜日に1日10万人のご利用があった。コロナ前の平均13万人と比べると半数程度でまだまだだが、間違いなく緊急事態宣言が解除されて国内は動き出した。私もこの10日間、国内線で3往復出張に行ってきたが、空港は混んできて、小型化していることもあるが機内は満席だった。国内線の需要は上向いている。

こういう予想の中で、1,000億円の赤字については、社員45,000人にも、第3四半期はEBITDAをプラス、第4四半期には営業利益で黒字にするということを示している。結構大変だが頑張っていきたい。来年度は需要回復のスピードは遅いものの、確実に回復していくという見立てをしている。黒字の確度は高い。

ーGo To トラベルキャンペーンが1月末、2月開始という話が出ている。12月、できるだけ早くといった要望も出ていた。業績面での懸念は。

旅行業界や運輸業界から、Go To トラベルの早期スタートの要望があった。いまのところ、1月中旬くらいからと言われている。GW以降も継続を、と要望している。去年に比べて上限が変更になり、平日と休日でクーポンの単価が下がってもいる。直接航空券、新幹線のきっぷの予約は対象ではなく、旅行商品に対する支援で、ホテル、旅館、バス、鉄道、飛行機といったサプライヤーに支援ができるだけスムーズかつ迅速に行き渡ることを期待している。

ーSARS、MARSいった感染症や9.11、政変によるリスクは常にある。今後教訓をどう生かしていくか。

若い社員は今回のことで驚き、不安になっているかもしれないが、私たちは過去こういったリスクに常にさらされてきた。1997年はアジア通貨危機で6期連続無配だった。2001年は9.11、JALとJASの統合があった、2007年にはリーマンショックもあった。リーマンショックが2年続いても我々の財務体質は耐えられるという見通しを持っていたが、今回はそれを超える影響だった。こういったことは大きな学びになる。

コロナが始まる1年前の2019年に、東京オリンピック・パラリンピックに向けた中期経営計画を作っていた。波があるから、その先にきっとまたリスクがある。そのリスクに備えて、過去に何をしてきたかを勉強しようじゃないかと、役員勉強会を2回ほどやった。おかげで、今回のコロナ禍の状況になったとき、迅速にいろんなアイデアが私のところに寄せられた。雇用は守ると宣言したが、社員には苦しい状況を強いることになり、その中には賃金や賞与のカットといったものもあった。社員は本当に頑張ってくれている。

もう1つは、パンデミックでは航空のように人を抱えたビジネスは非常に大きいリスクにさらされる。次なる体制を2つ、航空はITなどを使ってサービスモデルを少し省人化に変えようじゃないか、こういうことも大きな教訓になった。貨物事業をしっかりと作り上げていこうと、こういう契機にしたい。航空一本足打法からの脱却、これが待ったなしだと実感した。

ー2022年度に就航する第3ブランドのLCCは、ボーイング787型機でアジア・オセアニアへ飛ぶ。どのように事業を成長させていく計画か。

LCCとは、という考え方は難しい。ANAはフルサービス、ピーチはLCC、第3ブランドは何か。就航路線、ターゲット、機材のコンフィグレーションの議論を本格化させている。制服も決めていかないといけない。独自の便名でブランド名を決めていく。CAも制服委員会を作って検討を始めた。新しい航空会社を作るとはいえ、エアージャパンという整備規程や運航規程を持っている会社を母体としていくので、そういう意味で会社を作る手間は少なく、かなり効率的に準備ができる。大事なのはどういうマーケットで、どういうお客様をターゲットにするか。

ーANAがすでに運航している路線の一部、もしくは全てを移管するようなことはあり得るか。

需要が多いところ、需要が少なくニッチで攻めるの2つがある。ANAでは収益上難しい路線の就航もあるだろうし、独自にその会社がターゲットにできるディスティネーションは、アジア・オセアニアにきっとあると思う。決まっているわけではないが、例えば一日に複数運航している路線では、昼に飛ぶか、夜に飛ぶかが大きな選択肢になる。夜中に飛ぶのであれば食事は出さなくていい、こういったこともこれから決めていく。

ーどういった都市に飛びたいと考えているか。

お客様が多い所に飛びたがるが、単独で誰も見つけていない、誰も気づかないようなところ、日本からまだどこも飛んでいないようなところがあると嬉しい。ANAの国際線は最初にワシントンを選んだ。ANAのこういうDNAは 是非ピーチや第3ブランドにもこういうところを受け継いで欲しいと思っている。

単独路線の魅力と言うか、(ANAでは)日本から行くとメキシコシティとかヒューストン、ウィーンとたくさんある。いわゆるLCCマーケット、レジャーマーケットを抜いても東インドの中とかにある。そういったところは研究して、そこで築けるとライバルが入ってくる。そして収益が落ちたりして、別のマーケットを探す。だから未来永劫安定的なマーケットはないという風に思ったらいいと思っている。このニッチなマーケットもテーマ。

ー新規のマーケットの開発は大変なところがある。

航空会社は土地を買って工場を建てなくてもいい。ジャストフライ。ちゃんと空港があり、飛行機を離発着できるところはどこでも可能性がある。

ーエアージャパンには、4月時点で800人の従業員がいる。当面はANAブランドと第3ブランドの運航、この2つをやっていくのか。

エアージャパンは外国人のパイロットとエアージャパンの客室乗務員で、第3ブランドとANAブランドの機体の運航を担うことになる。今は、外国人のパイロットには一旦帰国してもらっているが、外部出向などを活用しながら対応している。

ーZIPAIRは2クラス290席で、ビジネスクラスとエコノミークラスでかなり余裕がある。第3ブランドで運航するボーイング787

できる限り座席を多くしていくのが成功の秘訣だと思っている。基本的には座席が多い飛行機の方が、ピーク時に稼ぐことができる。これがエアラインビジネスの原則。ただお客様も機内の快適さなどに非常に敏感、そういったところを十分考慮したうえで決めていきたい。

ー欧米路線はどのように考えているか。

まずはアジア・オセアニアからと考えている。この距離は、太平洋を含めてかなりディスティネーションの可能性が高い。でも面白い。ヨーロッパとなると機内食とか、座席も減ってくるので、チャレンジングと考えている。

そのため、(ZIPAIR Tokyoが)西海岸にチャレンジするのは注目している。西海岸に運航するということで、どのようなサービスやオペレーションをするのか関心を持っている。

ピーチは10年以上の歴史があるが、韓国とか台湾、沖縄からのバンコク路線など実績を重ねてきている。エアバスA321LRはロンドンからセーシェルというインド洋まで飛ぶ実験をエアバスがしている。能力的にはそれぐらいの航続距離は持った飛行機ではある。

ーANAからピーチへの路線移管を始めた。今後の路線移管についてはどう考えているか。

来年の事業計画からはANAとピーチのネットワーキングを担当する部署が共同で計画を作っていく。大きな進歩と大きな変化。角突き合わせていたりしたが、一緒に作っていこうというのは大きなこと。ジョイントマーケティング、ジョイントネットワーキングというのは大きな変化だと思っている。

ANAが国内線で126機、ピーチが37機あり、少しピーチに移管をしていく。まず5機相当でスタートする。ピーチの方は関西、成田、中部を基地にしていく。ANAの方は羽田と伊丹を中心としたネットワークを充実させビジネス需要に応える。ピーチはレジャーと新規需要を見つけていく。

象徴的なのは今回のピーチのガチャ。出てきたのは釧路など。お客様はちゃんと釧路に行こうとするという。こういうマーケティングはもうピーチならではでないかと思う。こういったお互いいいところを生かしていく。ピーチのマーケティングは異次元。かつては機内で外車売ったりした。こういうところを是非引き出していきたいなと思っている。

ー成田発着のANAの国内線全体、羽田発着でも地方路線でピーチに関すればもう少し値段が下げられて、需要が増えるであろうという路線を移管するような可能性というのはあるか。

グループ内で競合するのではなく、路線に対してそれぞれの強みを生かした役割分担を行っていく。お客様は運賃だけではなくて、ピーチになると面白いところがあるというところに期待している。

LCCだからビジネスマンが乗らないってことはなく、朝の一番機は確実に定刻で飛ぶ、そうするとビジネスで使えるじゃないか。このように地方から東京に行くのに、LCCを使うビジネス層も出てくると思う。これからはそういう運賃政策もあると思う。ジョイントでネットワークや運賃、こういったものを考えられるようにしていきたい。

ANAもかつて1万円で乗り放題みたいなことをやったが、ピーチのサブスクリプションはびっくりされたと思う。ピーチが貨物を扱いたいというのは、私は良いチャレンジだと思う。ピーチの飛行機は元々貨物を積むために作っていない。ANAの(エアバス)A320はコンテナが積めるが、ピーチはどちらかというと旅客数を増やすというような仕様だった。それでも貨物をちゃんと運んでいこうというチャレンジはいいこと。

ーピーチ、第3ブランドの新しい航空会社ともに羽田の乗り入れについてどのように考えているか。

ANAブランドが羽田、ピーチは成田と棲み分けるか。羽田は混雑空港なので、夜中はともかく発着枠もない。我々の政策では、LCCは敢えて競争の激しい羽田路線に固執する必要はないと考えている。

むしろ羽田以外の空港。地方と地方をつなぐとか、そういうところを目指したい。地方からLCCで成田に来て、そこからLCCバスで都心に来るというのはコロナ前の流れだったと思う。こういった流れを掴んでいけると考えている。ANAグループ全体で最適なネットワークを目指していく。

出張で東京に来る人がLCCで成田に着いて、都心に向かっている景色を私も見ていました。決して、LCCはもうビジネスに縁がないってことはないと思う。シンガポールではアジアのLCCがシンガポールとインドネシアの間を1日何十往復もする。日本の駐在の人たちは朝の便で出張に行っていた。夕方なら遅れる、だが朝一番は定刻なので使える、と。

通しの予約を受け付けなかったが、これも時代が変わっていくと思う。通しの予約やスルーバッゲージ、こういったサービスが入ってくると思う。そうすると、LCCというのは通し予約ができない代わりにローコストで自慢していたビジネスモデルだが、これからきっと変わってくる。

LCCはよくローフェア(低運賃)なんだという説明だったりする。ローコストエアラインだと、働く人たちもなんとなく待遇が低くなりそうなイメージを持つ。だから昔、ライアンエアーの社長が、「私たちの会社のパイロットや客室乗務員はすごい働いてすごく給料もらってんですよ」って言っていて、実際調べたらそうだった。飛行機の稼働を良くするなど工夫している。

一般の日本の人は、LCCはコストをセーブしてるから安全じゃないのでは、のような先入感を持っていると思うがそれは全然違った。新しい飛行機を使っていますから、故障も少ないです。LCCのイメージを払拭するような、新たなネーミングがないかなと思っている。

ー今、注目している他の航空会社は。

中国のエアラインですね。深セン航空で上海から成都に乗った時に良かった。ビジネスクラスだったのですが、スリッパのビニールも破いて足元に置くんですよ。ホットミールも美味しかった。同じことはロシアの飛行機にも久しぶりに乗ったときに、驚くことに笑顔でサービスがフレンドリーだった。ですから変わってきているという実感がある。

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