格上げ格下げいったいどっち~姿消す京王の準特急

 【汐留鉄道俱楽部】「準特急って何だ?」というタイトルで書こうと思っているうちに、いきなり「準特急廃止」のニュースが飛び込んできた。京王電鉄が2022年春に実施するダイヤ改正の内容を発表。現在無料の優等列車として停車駅が最も少ない特急と2番目に少ない準特急を特急に統合し、停車駅は準特急にそろえるという内容である。すなわち名称は格上げだけど、中身は格下げと理解できる。

 準特急は2001年、急行と特急の間に生まれた新参だ。その後、有料座席指定の「京王ライナー」が誕生したこともあり、特急と準特急はともに停車駅が少し増えた。現在の違いは、相互乗り入れする都営地下鉄新宿線への乗換駅である笹塚と比較的乗降客が多い千歳烏山の2駅に停車するかどうかだけだ。調布―新宿で比較すると、途中で明大前だけに止まる特急の約15分に対し、3駅に止まる準特急は約20分と、5分程度の違いがある。

 

特急停車駅への格上げが決まった京王線千歳烏山駅。 右上は「準特急」の表示が目立つ現在の発車案内

 上りの特急から地下鉄に乗り換える場合、一度明大前で降りて後続の各駅停車に乗り、さらに笹塚で乗り換えるという手間がかかるが、調布以西の乗客には面倒でも速いというメリットがあった。春からの統一特急はすべて笹塚停車になるので、所要時間は犠牲になるものの、乗り換えは楽で人の流れもスムーズになるだろう。

 沿線で育った筆者がそうであったように、京王の特急といえば看板列車であり、調布―明大前間の11駅通過、ノンストップ走行は爽快で誇らしかった。それがなくなるのは単純にさみしい気がする。とはいえ、21年10月、走行中の電車内で乗客17人が刺傷する事件が起きた現場がこの調布―明大前間の特急であったことを考えると、通過駅の数を抑えるのも安全対策上は都合いいのかもしれない。

 不思議なことに末端の高尾線内では、準特急が各駅停車なのに格下の急行が特急と同じ途中の3駅通過という逆転現象が生まれていた。それも春からはすべて各駅停車に統一される。

 

京王線の路線図の一部。高尾線内では停車駅数が準特急と急行で逆転現象が起きている(京王電鉄のホームページから)

 ところで、この「準」という列車種別は分かりにくい。もともと鉄道は各駅停車から始まり、後に急行が生まれた。鉄道網が広がり急行が当たり前の存在になると、長距離列車を中心にさらに特別な急行が出現。これが特急となった。停車駅の数の違いだけでなく、列車設備のグレードの違いで料金を上乗せするようにもなるが、大都市の通勤圏をカバーする私鉄では、京王のように一般車両で無料の特急を運行するところも多かった。

 都市が発展し路線が伸びてルートも多様化してくると、種別が3種類では足りなくなった。急行の下に快速を設けたり、急行の上に快速急行を設けたり、あるいは特急の上に快速特急を設けたりと、各社いろいろ名称を凝らして種別を増やした。時間帯を限った「通勤〇〇」「区間〇〇」なども見かける。そして「準〇〇」というのも、後から中間種別を増やすための苦心の末の名称だったわけだ。

 ただ鉄道会社ごとにルールが違うので、毎日利用している常連ならいいが、観光や買い物などたまに利用する乗客にとって種別が複雑なのは困りものだ。列車選びはスマホ頼りという人が増えているのも仕方あるまい。

☆共同通信・篠原啓一

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