<金口木舌>76年前のクリスマス

 不幸が続き、離れ離れになった首里士族の男と妻子。長い年月がたち、生活に余裕ができた妻と子は男の行方を捜そうとやんばるの村を訪ね歩き、親子3人が感動の再会を果たす

▼組踊「花売の縁」のあらすじだ。同作は76年前のクリスマスにも上演された。終戦直後の1945年12月、城前初等学校(当時)で開かれた演芸大会だ

▼会場には大勢の観客の姿。疎開や空襲、激しい地上戦などで生死も分からぬまま家族がばらばらになったそれぞれの境遇を重ね、涙を流した

▼琉球王国時代に始まり、琉球併合や沖縄戦、米統治下、日本復帰など世替わりを経て脈々と続く琉球芸能。今年、琉球舞踊の人間国宝に宮城幸子さん、志田房子さんが認定された。琉球芸能で女性の人間国宝は初めて

▼コロナ禍の約2年。舞台公演の中止も相次ぎ、大きな影響を受けた。まだ出口は見通せないが、伝統の技と心、味わい深い作品は、いくつもの苦難を乗り越え、継承されてきた。朗報が、さらに豊かな形で感動の舞台を次代へつなぐ弾みとなることを期待したい。

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