外れ1位で5球団競合から5年… 飛躍遂げた佐々木千隼が最後に流した悔し涙

ロッテ・佐々木千隼【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

入団から4年は怪我に苦しむも今季は54試合に登板、「8回の男」に定着

7回裏の攻撃が終わると、ZOZOマリンにはPerfumeの「FLASH」が流れる。映画「ちはやふる」の主題歌を背にマウンドに上がるロッテ佐々木千隼投手の姿は、今季マリーンズファンにとってお馴染みの光景となった。

2016年ドラフト1位で入団し、4年間で6勝のみ。「このままでは終われない」と決意を胸に迎えた今季は、54試合に登板。悩まされた怪我の影響も感じさせず、1年間1軍で投げ続けた。

防御率は1.26、34ホールドポイントはリーグ2位の好成績。「50試合以上投げられたことは自分としては大きかった。防御率は野手の方々が守ってくれたからこそのことなので、一概には言えないですけど、低いに越したことはないと思います」。謙遜する口ぶりの中にも、充実感がにじむ。

バッタバッタと三振を奪うタイプではないが、テンポの良い投球で8回を締める。4月には3試合連続で勝ち星が付くなど、バックも右腕の投球に応え、中継ぎながら8勝を挙げた。ビハインドの場面でも、この男がマウンドに上がれば、次の攻撃で逆転できるんじゃないか。そんなムードを作ることができる存在になっていた。

負ければ優勝を逃す試合で今季唯一の黒星「野球人生で一番悔しかった」

充実の1年になったかと思われたが、後味は悪かった。「野球人生で一番悔しかった試合です」と振り返るのは10月27日の楽天戦(楽天生命パーク)。負ければオリックスの優勝が決まる試合で、1-1の8回からマウンドに上がった。それまで負けなしだった右腕には、積み重ねてきた自信があった。いつも通り淡々と投球練習を終え、楽天打線と対峙する。

先頭の島内に投じた初球は一、二塁間に転がる。二塁手の中村奨が飛びついて送球するも惜しくも間に合わず内野安打に。それでも冷静だった。「慌てることなくいこうと思っていました」。その後、送りバントと申告敬遠で1死一、二塁で打席に代打・小深田を迎えた。カウント1-2から腕を振って投じたシンカーを右前に運ばれた。二塁走者が生還し、勝ち越しを許した。マウンドに上がってから失点するまで、わずか6球だった。

9回表、ベンチから味方の逆転を信じたが、思いは届かなかった。今季54試合目で初めて負けがついた。「優勝できないことが決まってしまって、点を取られた悔しさ、不甲斐なさもありましたし、いろんな感情がありました」。試合後にはクールな男が人目もはばからず大粒の涙を流した。

ロッテ・佐々木千隼【写真:荒川祐史】

悩まされた怪我を克服し54試合に登板「4年間で学ぶこともできた」

それでも今季のロッテの躍進を佐々木千隼無しには語れない。桜美林大から2016年に外れ1位として5球団から指名を受けた末にプロ入り。そこからは“ドラ1”というプレッシャーと、怪我との戦いだった。

「プロに入ってからずっと満足いくような投球はできていないんで、活躍したいという思いはずっと持ち続けています。まだ何もしていない。このまま終われないなと思います」

今春のキャンプ時にはこう語っていた。今季は肩肘の不安も解消され、キャンプも1軍で完走。昨季から取り組んできた“脱力”を意識したフォームも奏功し、球速こそ140キロ前後だが、打者を差し込めるようになった。その結果、独特の緩いスライダー、シンカーといった変化球が生きるようになった。

入団から4年間、苦しんだ経験も生きている。「トレーニング方法とか、リハビリだったり、ケアだったり……。いろいろ怪我をしてきて、学ぶこともできました。そのお陰だと思います」。投げたくても投げられないもどかしさは、身に染みて感じてきた。今季離脱することなく投げ続けられたのも、過去の経験があってこそだった。

強力なプルペンを形成し、141試合目までリーグ優勝を争ったロッテ。来季は新助っ人タイロン・ゲレーロもリリーフに加わり、また競争が始まる。怪我のないシーズンを送るため、オフは体を作りこむ予定だ。「1人1人役割というのはあると思うんですけど、その中で8回を任されて投げることができたのはとてもいい経験になりましたし、また競争に勝って、来季は優勝に貢献したいです」。最後の最後で味わった悔しさを胸に、更に逞しくなった姿でマウンドに戻ってくる。(上野明洸 / Akihiro Ueno)

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