インフル感染者いまだ「ゼロ」現場で感じる感染対策効果 発熱患者の診察が課題 ある町医者の一年

新型コロナウイルスの新変異株の出現によって、改めて感染対策が呼び掛けられている。コロナ禍が終わらない中、われわれの身近にある医院、診療所では何か起こっているのだろう。兵庫県伊丹市の「たにみつ内科」で日々患者と向き合う谷光利昭院長は、22年を迎える前に現況をつづった。

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年末に向けてコロナ禍は収まっていくと思われた時期もありましたが、オミクロン株の出現に伴い、先行きに不安を感じさせる報道も出てきています。

それでも、ワクチンの効果か、清潔観念が優秀なわれわれ国民の努力の影響なのか、日本においてコロナの感染者はここまで急激に減少してきたことは事実です。それに加えて、例年に比べても感冒の患者さんが少ないことには驚きを隠せません。

当院は屋外での診察になるとはいえ「発熱外来」を標榜しています。保健所からの依頼などもあり、発熱患者は比較的多数来院されていたのですが、この一年、重症の感冒様症状、インフルエンザの罹患を疑う患者さんはここまで一人もいないのです。

理由については感染症の専門医などでも様々な考え方があるようですが、現場の感触で言うと、手洗い、うがい等の感染予防策が、かなり功を奏していると思われます。これからも、この素晴らしい習慣を継続していくことは大切だと思います。

10月以降、コロナの感染が収束傾向となり、飲食店への規制が緩和されましたが、夜間や土日に飲食店の前を通っても、コロナが流行する前の活気が戻っていないように思います。むしろ、飲食店への規制が厳しかった時の方が人が集まっていたような感じさえします。先日、牛乳を飲んでくださいと首相が話をされていましたが、一部の業種の人間に目を向けず、その他大勢の国民がまだまだ困難な状況にあることは理解して頂きたいものです。

実際のところ、発熱患者はいまだにコロナ禍の前のように病院で診察を受けることが難しいのです。地域によりルールの違いはあるかもしれませんが、発熱があり医療機関で受診する場合、まず地域の医療機関(かかりつけ医等)などへ連絡しなければならず、気軽に近所の病院に行くことはできません。

先日、当院初診の80代男性の患者さんが、寒い夜に震えながら自転車で来院されました。高熱で震えが止まりませんが、その他の感冒症状が全くないことと黄疸を認めたことから胆道感染からの発熱を疑い、救急車で総合病院へと搬送しました。その日に緊急措置が施されて一命をとりとめましたが、もし一日遅れていれば危険な状態でした。

この例のように、通常ならもっと早く受診されていたであろう、と思えるケースはかなり多くあるはずです。感冒以外にも重篤な感染症はあります。色々な意味で、非常に厄介な世の中になってきました。オミクロン株の出現もあり、今後も発熱患者さんを普通に診察できないことは、非常に危険なことだと考えています。

◆谷光利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。

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